第18章 サイカイ
未だに感激の渦の中にいる脹相を置いていくのは気が引けたが、八重は虎杖のもとまで行った。
「脹相、すごく喜んでます」
「別に喜ばせるために言ったわけじゃねーし。あんなふうに訊かれたらあー答えるしかないじゃん?」
照れているのか唇を突き出しながら視線を逸らす虎杖が可愛らしくて八重はふふふと笑った。
すると、「そういえば、虎杖くん」という前置きを九十九が口にした。
「そちらの可愛い子ちゃんは誰かな?」
手のひらは八重に向けながら問う。
「ん?八重さん?んー……俺の飯作ってくれる、人?」
首を捻りながらそう絞り出すと、「専属料理人とか、プロアスリートか」と真希がツッコミを入れた。
そんな二人を尻目に乙骨が「八重さんは八百比丘尼なんですよ!」と紹介してくれた。
「…八百比丘尼……どうりでね」
八百比丘尼と聞いただけで何かを理解したように言う九十九に乙骨は目を見開く。
「…九十九さんも八重さんに何か感じますか?」
「あぁ…彼女は〝特別〟だね……ギフテッドホルダーと言ってもいい。ギフトの贈り主は…八百比丘尼の伝承をそのまま信じるなら…まぁ、これは私の第一印象と一致しているんだけど……大いなる海ってところか」
「…すごい。この短時間でそこまでわかっちゃうんですね」
乙骨が思わず感嘆する。
九十九はそれに手を挙げて応えると、「これはキレイなお姉さんからの忠告だけれど」と八重へ話しかける。
「君がこちら側に来るのなら〝八百比丘尼〟の名は今後一切名乗らないほうがいい」
「え…?」
突然のことで言葉を失う八重に、ようやく一行に追いついた脹相が横に立つ。
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味さ。不老不死ってだけで喉から手が出るほど欲しがる人間はいる。それは呪術界においても一緒だよ。君が今から踏み込もうとしている場所は善人のみの集団ってわけじゃあない」
その意味を八重は知っている。
きっと九十九でさえもそちら側の人間である可能性だってある。
八重の表情が強張っているのを横目で見た脹相は九十九を威嚇するように睨みつける。
「おいおい、お兄ちゃん。そんな怖い目で見ないでくれよ。私は今のところ八重ちゃんに手を出すつもりはないよ…今はね」