第17章 干渉
(私に呪力はないけれど、あなたの傷を治療することはできないけれど、あなたの痛みの存在は〝拒絶〟できる)
八重はずっと考えていた。
一度脹相が戦闘に身を投じれば、脹相の痛みの感情は共有できる。
しかしそれは、八重にとっては痛くも痒くもない。
だからこそ苦しかった。
脹相の痛みを知っているのに何もしてやれない自分が不甲斐なかった。
自分にできることはないのか。
心しか捧げることはできないのか。
彼の痛みを少しでもやわらげることはできないのか。
そして、気付いた。
自分には他に捧げることができるものに。
それは150年前、羂索に使って以来使っていなかった力。
代償を伴うので使うことはしてこなかった力。
しかし、その代償を負うのは自分自身なのだとしたら。
試したことはない。
しかし、試す価値はある。
試すなら今しかない。
八重は緊張しながら意識を集中する。
(まずは、目から…)
脹相の目を覆っている手元から脹相の感じている障りに話しかけるような感覚。
(あなたはそこにいないで。どこかへ行って)
私のところへ来てもいい、そう八重が思った瞬間、目の奥が重く痛くなった。
(よかった…)
八重はこれでだいたい自分の力が掴めた。
拒絶すれば自分の身体にそれが返ってくる。
言うなれば肩代わりと一緒だ。
ならば、いくらだってやりようはある。
(次は脇腹…)
本当であれば傷の全てを肩代わりしてやりたい気持ちだが、それでは脹相に気づかれてしまう。
(だから、拒絶するのは痛みだけ)
今度は左手に集中すると今ある痛みにだけ干渉する。
先程同様に語りかけるように誘い出す。
途端に八重の脇腹に痛みが走る。
目の時の比じゃない。
痛みで全身の血の気が引く。
冷や汗が出る。
吐き気がする。
術師は呪力操作で痛みも制御できるのか。
はたまた代償であるが故に痛みが増幅して返ってきているのか。
それともこの痛みをそのまま抱えながら今まで平気な顔で他人の心配までしていたのか。
八重にはわからない。
わからないが、今はもう自分のものになったこの痛みだけは脹相に返ることはないとわかる。
だからこそ八重は震えてでも耐えることができるのだった。