第17章 干渉
「乙骨と何を話していた?」
藪から棒にそう言われたので八重は「え…」と声のした方を見る。
近くにいるのに表情は見えない。
「移動中、コソコソ何か話ししていただろう。何だ?」
「…八百比丘尼のことを訊かれていました。〝人魚の肉〟とはどんな食べ物なのか、とか」
「平気か?」
「あ、えっと、平気です。そのくらいなら…」
「お前はもう八百比丘尼じゃない。話したくないことは話さなくていい」
そう言われて八重は初めて脹相は自分を心配していたのだと気付いた。
脹相も八重の過去を深くは訊かない。
それは過去に大きな罪悪感を抱いていると知っているからなのだろう。
その不器用な優しさに八重は顔が緩む。
ここが暗がりでよかった。
こんな顔を脹相が見たら、余計に顔を顰めそうだから。
「ありがとうございます」
そう言っても脹相は何も発しなかった。
「脹相、そろそろ休んでください。悠仁くんが起きたら知らせますから」
「お前は?」
「ここにいます。あ!」
八重は正座を少し崩す。
「私の足を枕にして横になってください」
そう提案する。
脹相は何も言わず、八重の方を見ている。
暗くて表情が見えないのでこの沈黙が何を示すものなのかが八重にはわからない。
「脹相?」
そう呼びかけても動く気配がない。
「横になるのは辛いですか?」
「…いや」
「では、どうぞ」
「……」
脹相は観念したように体を横たえ、頭を八重に預けた。
「高さは大丈夫でしょうか?調節できますよ?」
「…これでいい」
声は不機嫌そうだが感情は悪くないのは伝わってくる。