第16章 【乙骨】八百比丘尼
拠点に向かうにあたって浮上するのは八重さんの移動手段。
脹相さんは「俺が抱えていく」と申し出るも即座に断られていて、そこで僕が抱える選択肢もなくなる(ていうか、たぶんだけど、それを提案したら脹相さんに睨まれると思う…)。
ではどうするか、考える前に彼女の方から「あの…こちらの方にお願いすることはできますか?」とリカを指名してきた。
自分からリカを指名してくるなんて…本当にこの人は平気なんだ、と思った。
むしろ指名されたリカの方が戸惑って僕に擦り寄ってくる始末。
「リカちゃん、大丈夫。虎杖くんのお友達だって」
安心させるように話しけると、その様子を八重さんは目を丸くして見ていた。
そして、「この方は話せるのですか?」と驚きと少しだけ興奮が混じった声で訊いてきた。
リカと話せることがわかると、彼女はリカに脹相さんと虎杖くんを運んでくれたことにお礼を言い、自分も運んでくれないかとお願いをする。
まるで一人の人間にするように。
丁寧に、親しみを込めて。
その姿に僕の心は震えた。
リカもそのようで、彼女のお願いを了承して彼女に手を伸ばす。
一瞬、リカの力加減を心配したが、リカは蝶よりも花よりも丁寧に彼女を手中に収めていた。
リカの心遣いに気付いた八重はやはり笑顔でリカにお礼を言うんだ。
なんでそこまで普通に接してくれるんだろう。
「…リカちゃんが怖くないんですか?」
そう訊けば「恋する女性に悪い方はいません」と笑顔を見せる。
あぁ、この人、比丘尼だから誠実で優しいんじゃない。
八重さんという人間が誠実で優しいから比丘尼をやっていたんだ。
「そうなんです。リカちゃんは素敵な女の子。なんです」
そう言って二人でクスクス笑い合うとそれは年相応の女の子にしか見えなかった。
そんな所に「早く案内しろ」という脹相さんの声が飛んできて内心ビクリとする。
もっと八重さんと話したいところだけど、これ以上脹相さんを待たせてはいけないので、「また今度」とお互い約束して笑い合えば再び声が飛んでくる。
(あれ?これって……急いでるだけじゃない、よね?)
そもそもこの二人ってどういう関係なんだろう…?
チラリと八重さんを振り返る。
彼女は脹相さんの様子を気にもしていないようで「?」と僕を見ている。
(あー…そうゆうこと?)
