第16章 【乙骨】八百比丘尼
そんな風に感じてしまったもんだから、その後にしたかった質問が言いにくくなってしまった。
「…えっと…刹那さんって何者ですか?」
そう尋ねれば、僕から視線を外していた八重さんが僕を見て戸惑ったように眉を下げる。
質問がざっくりし過ぎていた。
なので、今度は「普通の人じゃないなーと思って」と僕が持ている精一杯のニュアンスで伝えてみる。
そうすると、彼女は何かを感じ取ってくれたよう。
「あ…あー…150年前まで八百比丘尼と名乗っていました…」
何故か少し恥ずかしそうに教えてくれた。
八百比丘尼!?
呪いの勉強をするにあたって全国の伝承の類も知識としては入れてある。
でも、それはあくまで伝承であって、どこか実体のないものだとばかり思っていた。
それが、今まさに目の前に…。
「八百比丘尼って、あの、八百比丘尼、ですか!?」
ほぼ脊髄反射で訊いていた。
名乗るだけなら誰にでもできるけれど、出会い頭に感じた違和感はそれで説明がついてしまう。
こうなってくると知識としての伝承と実体に違いがあるのかとかが気になって、次から次へと質問を重ねる。
彼女は少し困っているようだったけど、ちゃんと答えてくれた。
やはり比丘尼だけあって誠実な人物なのかもしれない。
そうしていると横から「乙骨」と脹相さんが一歩踏み出し、僕と八重さんの間に半身入れてきた。
「行かなくていいのか?」
眉根が寄っている。
怒っている?
待たせてしまったからだろうか。
脹相さんの顔も視線も怖いので反射的に謝っていた。
それでも八百比丘尼への興味は収まらなくて、「また後で話、聞かせてください!」と彼女に釘を差していた。
彼女は少し困ったように、でも少しだけ嬉しそうに頷いてくれた。
そして、その後に「どこに行くのですか?」と不思議そうに訊いてくる。
あぁ、さっき会ったばかりの八重さんには状況が読み込めないよね、と思って、僕らの拠点に向かうことを説明し始めた時だった。
「そこで悠仁を一度殺した理由を聞く」、「俺も乙骨に伸された」なんて脹相さんが言う。
八重さんが固まり、僕を引いた目で見てくる。
脹相さん…それ、今言う必要あったかなー…
いや、事実だから言い訳のしようもないんだけど、どうにもそこだけ聞くと…
とりあえず、虎杖くんが起きたら話すからと出発する方へ話を進める。
