第16章 【乙骨】八百比丘尼
「脹相さんと八重さんってどういう関係なんですか?」
拠点へ向けて出発して、脹相さんは反対側の虎杖くんの方についているから聞こえないだろうとコッソリ八重さんに訊いてみる。
途端に八重さんの表情が固くなった。
思っていた反応との違いに引っかかりつつも八重さんの言葉を待つ。
「…あの…それは、簡単には説明ができないのですけれど……被害者と加害者、という感じでしょうか?脹相はもういいって言ってくれているんですけど…私は脹相に足を向けて寝られません……私、寝ないんですけどね」
普通に見たら被害者と加害者の関係性は逆に感じるけれど、そこはのっぴきならない事情があるようだ。
八重さんが悪いことをするように見えないし…。
ただ、最後の天然なのかどうかわからない八百比丘尼ジョーク(?)で、僕の興味が再び八百比丘尼に向いてしまった。
「不老不死って寝なくても良くなるんですか?」
「え…あ、はい。食べなくても死にませんよ」
「うわー、それはすごいな…。そもそも不老不死になったキッカケって〝人魚の肉〟を食べたからなんですよね?〝人魚の肉〟ってどんな食べ物なんですか??」
「あ…それは…わからないんです」
「え?」
僕の中で何かがひっかかる。
「〝人魚の肉〟と言われているものを見たことはないんです。3歳の頃、流行病に罹って、いよいよ危ないって時に親が私の口に入れたもので…なので、私自身はどんなものかはわからないんです。…あ、味は美味しくはなかったです」
問いに答えられないことへの申し訳なさ以外は朗らかに話す八重さん。
ちょっと待って。
「…伝承では『自ら口にした』となっていますが…?」
「今はそのように伝わっているのですか。伝承ですからね、人から人へ渡る過程で少しニュアンスが変わることもありますから」
彼女は穏やかに微笑んでいる。
僕は微笑むことはできない。
だって、それって…
もしかして、八重さんは虎杖くんと同じような存在なのかもしれない。
そうなのだとしたら…。
もし、今後、彼女がそれで苦しむことになったとして僕にできることがあるのなら、僕にできることはなんだってしてあげたい。
そう思ってしまった。
だって、彼女は僕の大切にしている人をちゃんと人間として大切にしてくれる。
そんな人だから。