白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第26章 ● 敗北の夜 ○
ソファに腰を下ろすと、たちまち隣にホステスが滑り込んでくる。1人の女が、甘い声で言う。
「ねえ、お兄さん、星歌ちゃんってどんな子?」
緒方は、女の顔をまじまじと見つめてポツリと呟く。
「…似てない」
左側の女が、軽く笑いながら言う。
「えー?どんな子なの?教えて〜」
「星歌は…オレの恋人だ」
瞬間、頭の奥に星歌の笑顔が浮かぶ。背後から抱きしめたクリスマス。初詣の着物姿。誕生日には、寒い夜に駆けつけてくれた…。胸がギュッと締めつけられるような感覚を覚える。
「…星歌は、どこだ?」
緒方は突然、芦原の胸倉を掴んだ。
「星歌はどこだ?早く連れてこい」
「緒方さん、星歌ちゃんはここにいませんって!似てる子も、たぶんいません!」
「違う!星歌はオレの恋人だ!どうしてここにいないんだよ!」
声は震えている。酔いと敗北の悔しさ、会いたい気持ちが、ごちゃ混ぜになっている。
「星歌ちゃんの写真見せて?」
ソファに座り直した緒方に、女が声をかける。緒方は「星歌の写真…」と呟きながらスマホを操作するが、酔いのせいか手元が覚束ない。やがてスマホをテーブルに投げだす。
「お前には見せない」
「え〜ケチ〜」
楽しそうな女たちに対して、芦原は慌てる一方だった。今でも緒方は「星歌はどこへ行った?オレが負けたから来ないのか?」などとボヤき、時折、芦原をキッと睨みつける。ホステスに勧められるまま、酒も飲み続けている。芦原は、テーブルの緒方のスマホを手に取り、席を離れる。幸いなことにロックはかかっていない。履歴の1番上に星歌の名があるのを見つけ、躊躇いながらも電話をかけた。
「もしもし」
「芦原です。星歌ちゃん!ごめん!緒方さんがメチャメチャ酔ってて、星歌ちゃんに会いたいって。オレにはどうしようもないんだ。こんな時間なんだけど、迎えに来てくれないかな…」
数秒の沈黙。
「分かりました、すぐ行きます」
「ありがとう、助かるよ」
芦原は店の名前と住所を告げて電話を切った。