白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第23章 ○ 一柳家での正月 ●
車を門前に停めると、ちょうど一柳棋聖が玄関から顔を出す。
「緒方くん!あけましておめでとう。せっかくだから一緒に昼飯食べてから1局打とう」
「あけましておめでとうございます。いや、正月からお邪魔しては…」
「おせちも餅も買いすぎて余ってるんだ。緒方くんがいれば星歌も喜ぶし、遠慮するな」
にこやかだが押しの強い口調は、彼の棋風にも似たところがあるような気がした。
リビングに通されると、ソファに寝転がっていた健が気怠げに言う。
「緒方先生、あけおめ」
「ああ、おめでとう」
星歌は伯母を手伝うと言ってキッチンへ向かい、残された緒方は急に手持ち無沙汰になる。健が近づき、耳打ちしてきた。
「実はさ、最近また星歌に告白したいって相談してくるヤツらがいて。オレ毎回『アイツ、社会人の彼氏とラブラブだから諦めろ』って追い払ってるんすよ。えらいっしょ?」
緒方は一瞬、言葉を失って、それから小さく頭を下げた。
「…ありがとう。助かる」
「着物を着るか迷ってた星歌に『緒方先生きっと喜ぶから』って言ったのもオレ」
「そうか…」
「いい子のオレに、お年玉くれてもいいっすよ?」
「……。あいにく持ち合わせがなくてな…」
「PayPayで送金してくれてもいいっすよ?」
「……。今どきだな…」
緒方がスマホを取りだそうとすると健は笑う。
「冗談っすよ。本当、緒方先生はからかい甲斐があるな」
「……。冗談だったか…」
「ニャー」
どこからともなく現れた黒猫のミケは、緒方の近くに座り、再び鳴く。
「ニャー」
「『こんにちは』だって」
「…分かるのか?」
「そんなわけないじゃん」
健が笑う。…コイツ、つかみどころがなさすぎる…。緒方のペースは乱されっぱなしだ。
「ミケ、こんなところにいたのか。ああ、緒方くんに挨拶してたんだな」
戻ってきた一柳が嬉しそうに言う。…この親子、なんなんだ…と緒方は思うが、星歌のお気に入りのミケが自分に挨拶してくれたかもしれない…というのは、悪い気はしない。
「さあ、食べましょう」
一柳夫人の穏やかな声が響く。テーブルには雑煮や重箱が並べれらていた。