第34章 編入生とイジワル
高専へ戻る道
日が高くなったので、まだまだ明るい
アスファルトに二人分の影が長く伸びる
五条は珍しく静かだった
ポケットに両手を突っ込み、前だけを見て歩いている
夏油が横目で見る
「……流鏑馬さんは孤独だったのかもしれないね」
返事はない
ただ、足音だけが続く
夏油は続けた
「人の気持ちが分かる子だから嫌なことをされても怒らない
自分が少し我慢すれば、誰も傷つかないと思っている」
夕風が吹いて木々が揺れる
「それが普通になってしまったんだろう」
「……」
「傷つきたくないから」
「……」
「そうやって生きてきたのかもしれない」
しばらく沈黙が落ちる
やがて五条が小さく息を吐いた
「……ばっかじゃねーの」
夏油が視線を向ける
「悟…今、面倒だなとか思ってる?」
「べ、つ、に!」
即答した五条に夏油は苦笑する
その否定が、一番分かりやすい
五条は眉間に皺を寄せた
頭の中で、何度もあの日の言葉が反芻される
――よかったぁ、普通の男の子で
最初は腹が立った
五条悟を普通と言う奴などいなかったし
皆、昔から、勝手に特別扱いをする
なのに、あいつだけは違った
だが今なら少しだけ分かる
もしかしたら
あいつが自分を普通の男の子と言ったのは
紅海が五条を軽んじたからじゃない
逆だ…よっぽど普通じゃない人間に、振り回されてきたから
機嫌一つで態度が変わる人間
都合のいい時だけ近付く人間
何もしていないのに、突然距離を置く人間
そんな連中の中にいたから
ただ普通に話してくれるだけで…ただ隣にいてくれるだけで
「普通」だったのかもしれない
……普通だと言われて苛立った自分が馬鹿みたいだ
胸の奥が、少しだけ重かった
「君、流鏑馬さんの事、結構気にしているね」
「だから別にって言ってんじゃん」
「そう?」
夏油が笑う
その顔が少し気に食わなくて五条は小さく舌打ちした