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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第31章 変化と進展


══閑話══

高専医療棟
消毒液の匂いと、古い蛍光灯の白い光
窓の外では木々が揺れ、遠くで見回り術師の足音が時折響く

流鏑馬紅海が入院して数日
本来なら術師の入院など珍しくもないのだが

「失礼しまーす、夕食持って来ました」
彼女の病室の扉を開ける役目だけは、最近妙に取り合いになっていた

「あ、ありがとうございます!」
ベッドの上で身体を起こした紅海が、ふわりと笑う

包帯、少し青白い顔色…
それでも、その笑みは不思議なくらい柔らかい

「今日、デザート付いてますよ」 「ほんとですか?やったぁ」

それだけで
運んできた補助員の疲れが少し抜ける
呪術界は人の死にも、呪いにも慣れ過ぎる

だからこそ、 あんな風に真正面から「ありがとうございます」を言われると、妙に胸に残った
しかも紅海は、相手の名前を覚える

清掃員の女性には「堅山さん、この前のお花、綺麗でした」
夜勤の職員には「おやすみなさい、澤口さん」

些細なことを自然に口にする
それが出来る術師は、意外と少ない

「……流鏑馬先生って、なんか癒されますよね」 「分かる」 「一級術師なのに偉そうじゃないし」

ナースステーション脇で、声が小さく弾む
本来なら、一級術師など遠い存在だ

しかも流鏑馬紅海は戦闘能力も高い
任務報告では悲惨な現場も多い

だが実際に接すると、 どこか普通で

「ごちそうさまでした!」
返却された食器は、いつも綺麗だった

小さなメモが添えられている時すらある
“夜勤お疲れ様です” “無理しないでくださいね”
それを密かに引き出しへ保管している補助員もいた
だからこそ
数日前の“暴走未遂”の報告は、医療棟に重い影を落としていた

報告書の文字だけ見れば、 まるで危険呪物だ
「……あの人が、本当に危険なんですかね」

誰かがぽつりと漏らす
ただ、皆少しだけ黙った

病室の扉の向こう
紅海は今日も、 配膳の人間に頭を下げている
その姿を知っているから、 簡単に“化け物”とは呼べなかった
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