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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第31章 変化と進展



二つの人生の記憶が同時に存在している
神へ祈り続けた年月
血と供物に囲まれ利用されて生きた女の記憶
一方…授業、笑い声、仲間…


「……私は」
言葉が途中で止まる
どちらの問いか分からない
「私は誰だ…」

巫女なのか紅海なのか
胸の奥がざわつく

今自分の中にあるのは解放感だった
鎖が切れたような感覚で長く縛られていたものが消えている

誰も、自分の能力を求めない…
「……自由か」
その言葉を初めて理解した
同時に脳裏に別の感情が走った
不安、恐怖…それは紅海の感情だ

魂に触れて自分を壊そうとした者がいたはず…
今は追い掛けてこないのか?

少し、歩くとふらついた、紅海の身体が限界に近かったからだ
高熱を出している…身体が「休め」と訴えている
だが巫女は立ったまま空を見上げた

高く伸びる建物…無数の光を放っている
星がほとんど見えない空に掌を掲げて魂から自然のエネルギーを取り入れる

「鈍い、神域よりも治りが悪いが、仕方がない」

巫女の力を発揮しようとし、うまく発動できず文句を言う
熱は下がったが充分に体力は回復していない

その瞬間…胸の奥で強く脈打つ感情
紅海のものだ
══悟
その名前を思い出した瞬間、息が詰まった
知らないはずの想いが溢れる
信頼や安心…

巫女は静かに理解した
「……この身体は、あの者を求めているのか」

巫女の記憶の中には存在しない感情なのに
それは確かに自分の感情でもあった
だが同時に、巫女は気付く
今の自分は呪術師でも教師でも流鏑馬紅海でもない
神に仕えた存在が現代へ放り出されたもの”なのだ

つまり
「……私は、何者にも属さない」
それは、初めての事だった…
巫女はゆっくり歩き出す

足取りは不安定なのに、迷いはない
もし、紅海の記憶を辿り…紅海の帰る場所へ行けば
自分は再び封じ込められる…

巫女は立ち止まる
自由になったばかりなのに、そんなのは嫌だ…

それなのに、気を抜けば、紅海の家へ足が向く…
「嫌だ!まだ帰りたくない!まだ、私は見たい」
夜風が吹き髪が揺れる

この時代を…
この世界を…
この“生”を…

誰にも知られないまま
流鏑馬紅海の身体を持つ巫女は、現代の街へ消えていった
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