第30章 呆然と失墜
向かいに立つ五条悟は、汗一つかいていない顔で首を軽く回す
「いやぁ、久々にちゃんと殴られたわ」
軽い調子だが、六眼は、ずっと紅海を見ていた
紅海が小さく笑う
『…本気、ちょっとは出た?』
「失礼な…僕いつも本気だよ?」
『嘘ばっか』
紅海のツッコミに悟が肩を揺らして笑う
その笑顔を見た瞬間、紅海の中で何かがほどけた
『悟…私、悟が、そうやって笑ってるの好き』
空気が止まる
周囲の術師たちが一瞬だけ動きを止めた気がした
紅海は気づかないまま続ける
『ポジティブな悟も好きで…
怒ってても、誰かに嫌われて悪口言われてても…』
息を吸う
『私は悟のとなりに立っていたいって思ってた』
紅海はまっすぐ前を見たまま言葉を重ねる
『でもさ……京都に配属されてからの何年か、
悟と私の距離、遠くなった気がしてて
でも、悟は優しいから、帰ってきた私に笑い掛けてくれてたけど
……あ、怒ってる時や意地悪な時もあったけど』
自嘲気味に五条は肩をすくめる
『でも、これで一区切りついた気分
結果的には、悟は真実を教えてくれるはずだったと思う…
知らないふりして、騙される演技も身に付けなきゃね?』
ほんの少し、大人びた声
『もう私達、高校生じゃないし』
紅海は深く頭を下げた
『反省しました!!
今度からは駄々こねません!多分!』
五条がゆっくり歩いて夜蛾の横に立つ
妙に真顔で確認する
「……ねぇ…」
「なんだ?」
「今さ、紅海……さりげなく好きって言った?」
夜蛾は深いため息をついた
「悟」
「はい」
「確かに言ったが、紅海が言ったニュアンスは親友に向ける好きだった気がするぞ?」
腕を組み直し、呆れた視線を五条に向ける
悟が固まる
「……え?」
紅海が顔を上げる
『え?』
周囲の術師が視線を逸らす
ゆっくり紅海を見て五条は両手をポケットに入れた
「まぁでもさ、僕の隣に立つなら、もうちょい強くならないとね」
紅海が即座に返す
『今日、結構押してたと思うけど?』
「気のせい~!絶対気のせい~!」
『あ!ごまかした!』
二人の距離が自然に並ぶ…
「…まったく」
夜蛾はその背中を見送りながら低く呟き笑った