第1章 突然の政略結婚
アスランは無理だ。
そして部下であるシホを政略結婚させるのは気が引ける。
俺しかいないのか。
「1日だけ時間をください。」
引き受けるしかないのはわかっている。
ただこの気持ちを、整理したい。
「彼女は親兄弟に溺愛されてるそうよ。無理に冷たくする必要はないけれど、箱入り娘なんだから何か嫌な事があったらすぐに泣きついて帰るでしょ。」
エザリアの声は虚しく響き渡った。
「お前の嫁ぎ先が決まったぞ。」
少女は大きな目を開きキョトンと首を傾げる。
「私ですか?」
「嫁ぐんだからお前しかいないだろ?」
まるで愛しい妹のように優しい手付きで頭を撫でる。
「もう、アーサーお兄様たったら!」
雪のように白い肌をほんのり薔薇色に染めて抗議する。
「相手はプラントの若造だが…。よくキレる青年らしい。まぁ、旅行に行くぐらいのつもりでいたらいい。」
「なぜですか?」
「3年以内に戻ってこい。ファウンデーション王国が力を持てばプラントなど恐るるに足らん。だがら基盤が固まるまで我慢するのだぞ。」
「セレンには難しい話だ。深く考えないで大丈夫さ。」
「もうっ!」
側から見れば仲の良い家族に見えるだろう。
子供を、妹を溺愛する微笑ましい風景。
反吐が出る。
家族からも国民からも愛され大切にされる王女。
そう演じているだけ。
「3年か…。」
「気が乗らないのかい?」
いつのまにか部屋の扉を開けてアーサーが入ってきた。
「お兄様…!」
「私達は今まで表立ってプラントと対立してこなかったが中立でもなかった。テロリストの本拠地の温床と言われてる国の王女を果たして向こうは手放しで受け入れてくれるかな?」
なぜ不安にさせる事をわざと言うのか。
「そんな場所に行くなんて…私怖いわ…。」
泣くふりをしながらチラリと様子を伺う。
「大丈夫だよセレン…。父上は3年と言ったけど嫌なことがあったらすぐに戻っておいで。」
黒髪に整った顔立ちに高身長、程よく筋肉のついたバランスや良い体、年頃の少女でなければ無意識に見惚れてしまう。
美しい兄弟愛、隠れて覗いているメイドたちがうっとりとした目つきでその光景を眺める。
しかしセレンは違う。
手に汗が滲ませ、この返答で合っていたのだと胸を撫で下ろす。