第8章 ボクシング・デー
酒に手を伸ばしたい気持ちを押さえ、上段に横たわる透明のボトルを手にとった。
そして、その下の段に目を向けて、首を傾げた。
白いビニールからはみ出すのは、ベルにリボンがかけられた半額の文字が印刷されたシール。
「レノ、これは何?」
「ルードに押し付けられた。食いたいならやるよ」
アグレイスは、キャップを緩めたボトルをレノに手渡すと、低いテーブルで袋を広げた。
中には、二つの箱。
白い油の滲んだ箱は、冷え切って、表面に油の固まった七面鳥のグリル。
そのままでも食べられないこともないが、できれば温め直したい。
もう一つの箱には、おそらくケーキだったもの。箱の底に広がる赤い染みの上には形を残さないクリームが潰れたスポンジに寄り添っている。
「ひどいわね」
アグレイスは溜息をつくと、指ですくい上げて口を付ける。
甘酸っぱさが飢えた舌を潤した。
これはこのままでも食べることができそうだ。
袋に手を差し入れ、慎重に箱を持ち上げたところで、もう一つ塊が出てきた。
袋の底に散らばる紙の破片と光る粉。
唯一、手に取れるものを摘まんで、まじまじと眺めた。
変にへし曲がった金属。元の形は。
「……うぐぅ」
ベッドから乗り出したレノが、半身を床に落とす。
「何やってるの?」
溜息ひとつ。呻きを上げるレノの脇に腕を差し入れた。
ヨイショと掛け声ひとつで力を入れるが、レノがするりと体を捻った。
そしてまた呻く。
「がはっ……返せよ」
大人しくもなくベッドに横たわされたレノが顔を歪めて吐き捨てた。
「いやよ。私にくれたのでしょう」
アグレイスは握った拳を開いて、歪んだ輪を見つめる。
そう、輪だった。大きさからみて、女性向けの指輪だったもの。
かすかに残る輝きが石の存在を主張するが、もう元の用途には戻らない。
比較的無事な裏側の刻みに指を這わす。このイニシャルは。
「これもルード?」
アグレイスは指輪に目を向けたまま、レノに問いかけた。