第8章 ボクシング・デー
「家にいる。行ってやれ」
無事ならいいと胸を撫で下ろしたアグレイスはルードの言葉に黙る。
「なんだあ? 俺を殺そうとするほど心配してたんだろ? 家くらい…うぐっ」
後輩の刺々しい口調は、ルードによって強制的に止められた。
ロッドの言う通りだ。見舞いに行くのに理由はいらない。
「アグレイス」
焦げた葉の香りが鼻をくすぐる。肩にかかった重さに顔を上げると、ルードの上着がかけられていた。
改めて自分の姿を見下ろせば、粉塵に煤、破れた袖からは黒々とした血の滲みが痛々しい。
「ケアル」
ルードの重みのある低音が優しい光を生み出す。痛みも疲れもスーッと呑み込まれていく。
「あの時とは逆ね」
「レノは昨日八番街にいた」
「ありがとう」
アグレイスは柔らかく微笑むと、来た時とは反対にゆっくりと自動ドアが開くのを待った。
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最後の段に足をかけて、体を引き上げる。
最上階。
この上は屋上しかない。
短い廊下に一つしかない扉を前に小さく嘆息した。
震える人差し指がボタンを押す。
一、二、三。
もう一度押すが、インターフォンは無音を返す。
ルードの言うことに間違いはない。レノは間違いなくここにいる。
胸元から取り出したパスケースには、いつだったかレノに渡されたカード型のスペアキーがあった。
今まで取り出すことすらなかったパスケースの重鎮には傷のひとつもない。
戸口に当てれば、すんなりと扉のロックは解除された。
入り口を背に薄暗い廊下の突き当りの扉を開く。
向けられたのは銃口。
アグレイスは両手を軽く上げて、降参のポーズを取った。この至近距離ではさすがに避けきれない。
「私よ」