第8章 ボクシング・デー
「アグレイス」
低い声が割り込んだ。
指先から力が抜ける。
振り返るまでもない。その声の主を彼女は知っていた。
激しく咳込む後輩を後目に、アグレイスは駆け出す。
「ルード!」
「無事だ」
尋ねる前に簡潔な答えが返される。
「本当に?」
「命に別状はない」
アグレイスは目をつむり噛みしめるように、長く息を吐いた。
「そう、よかったわ」
「よくねえよ!」
立ち上がったまではうまく行ったようだが、足がもつれたのか。壁に体を預けたままのロッドが叫ぶ。
「こんなところで大声を出してはダメよ」
小さな子供を叱るように、しーっと彼女が立てた指をロッドが掴んだ。
「あんたにだけは言われたくねえ」
「ロッド」
またしても割り込むルード。ロッドは身長差生まれたしかたのない上目遣いで先輩を見返す。
「この程度も対処できないのか」
「あー! アンタもそっちの人間かよ!」
「医局ではお静かに」