第9章 第九話
しかし、なかなか人が来ない。
「…来るんじゃ、なかったかな…」
こんなにも感じる悪意。初めての経験で、私は少し挫けそうになってしまっていた。
ここは、貴族街の最深部に位置していた。それはまさに、貴族の権利と言わんばかりの配置である。
ハリーナ様の馬車がなければ、貴族街に入ってくるのも辛かった。
そして、どんなひどい仕打ちを受けるのかとビクビクしていると、ドアは開かれた。
「遅くなりました!わたくし、魔法庁の管理部を任されております、ラドクリフと申します」
そう言って優雅に一礼した。
「あ…私は、シアンと申します…」
思ったよりもひどい人が出てこなくて、拍子抜けてしまった。
力なく挨拶すると、
「数々、嫌な想いをさせてしまい、申し訳ありません。シアン嬢」
と謝られてしまった。
しかもシアン嬢って!!
「魔法使いはとても貴重な人材ですので、わたくしはゾンザイに扱う気はございません。魔法…それは神秘の力」
「あ、ありがとう、ございます…でも、私の力はちょっと…お役に立てるものかわかりませんが…」
だって、みんな火の魔法とか、風の魔法とか使うのに、帽子を生み出すって、なんやねんって感じじゃない?
「能力については聞き及んでおります。率直に申し上げますと…」
ラドクリフ様は細い目をカッと見開いて、
「素晴らしい!!!」
「え?」
「今まで聞いたことも見たこともない能力です。無から有を生み出す。神秘の中の神秘!!」
彼は、手を広げて大げさなジェスチャーをする。
「いや、でも…火の能力とか、風の能力とかのが…」
「のが?」
「あ、いえ…か、かっこいいな、と…」
「たしかに、そういったものを扱う力も素晴らしい能力…魔物討伐には、なくてはならない能力です。
…ですが!!!」
「はい!!!」
「貴女の力を、ぜひわたくしもこの目で見たいと考えています」
なるほど!…なんか恥ずかしいのだが。だって、すごい魔法をいろいろ見てきた人でしょ。私の変な魔法じゃ…
「…あーはい。わりましたぁ…」
ちょっと気が引けたけど、私はゆっくりとシルクハットをバックから取り出した。
「…?…それは?」
「私の商売道具です!!ここから生み出します!!!」
「それは興味深い」
「何か、帽子にご希望はありますか?」