第10章 第十話
「シアンさん、ぜひ貴族街にお店を開いてください」
帽子を出した後、ラドクリフ様に言われたが、私は断固として拒否した。
最初は、断っていいのかわからなかったけど、どうやら私の気持ちを優先してくれるようだったので、固くお断りした。
「…私は、この街で生きていく自信がありません」
本当、その一言に尽きる。
私のような一般市民が能天気に生きていける街ではないと思ったのだ。
「ですが、ここのほうがずっと治安はいいですよ。あなたが強盗に襲われる可能性だってあります」
その点を非常に心配してくださっていた。
「貴女がいなくなったら、その唯一無二の魔法も消えてしまう。それだけは断固阻止せなばなりません」
そう言って、彼は私に一人の護衛をつけてくれた。
「…ということなのです…」
洗いざらいセカに説明すると、セカは安心したようにうなずいた。
「魔法庁の方に、味方がいたのはよかったな。俺も任務に集中できるし、あとはユラ殿に任せよう」
ユラさんは、セカに敬礼らしきポーズを取った。
このユラさんが私の新しい護衛である。
私と同じくらいの年齢だろうか、大きな緑の瞳に黒髪。
「あの、ユラ、様?」
「様付けはおやめください。私はあなたの護衛兼助手です」
「でも、身分というやつが、私のが下なんですよね。それって…」
「かまいません。これも仕事ですので」
熱のない目で私に言った。
あ~嫌なんだろうなぁ。
「じゃあ、ユラさんとお呼びしますね。私のことは呼び捨て…だとちょっとダメなのか。さん付けでお願いします」
「わかりました。お心遣いありがとうございます」
固いな…。
セカと大違いだ。
ちょっと息が詰まりそうだ。
「じゃあ、セカ!!金眼の情報待ってますね!私も調べられることは調べます!」
「わかった。がんばれ」
そう言って、私に背中を向けた。
え?それだけ?
私はちょっとさびしくなった。
でもさ、仕方ないよね。セカも仕事で私の世話してくれてたわけだし。
「ばいばい…」
私は見えないように背中に向かって手を振った。