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シアンの帽子屋さん

第8章 第八話


結局、手掛かりのないまま、三日が過ぎてしまった。


ミソラ夫人が10時ぴったりに現れた。

「三日…経ちましたが、本当に完成しているの?」

キツネにつままれたような表情で聞いてきた。

「あ、一応…こちらに…」

そう言って、私は奥から白い布をかけた帽子を運んできた。

帽子を見る直前、ミソラ夫人は両手で顔を覆った。

「え?」

私は心配になり、立ち止まると、

「この香り…」

金木製の香りがかすかに匂ってくる。

「なぜ!?」

そう言ってツカツカと私のほうに早足で歩いて来て、帽子の上にかけた白い布を取り払った。

「なぜ、あの帽子がここにあるの…?香りまで…!!!」

「香り…?」

「この金木製の香りよ!なぜ主人との思い出の香りを知っているの!??」

「!?」

思いもよらない言葉だった。

私は何と答えたらいいかわからず、

「お気に召しませんでしたか…?」

と、うつむいて、それだけ言うことしかできなかった。

「貴女は、何者なの!?」

からん…


ミソラ夫人に詰め寄られていると、いつもの金髪がお店に入ってきた。

「何か、ありましたか?」

「ありましたわ!!帽子が、私の思い出の帽子が…!!」

ミソラ夫人は涙を流しながら、錯乱していた。

「この香りも!形も!!すべてが私の思い出の中の帽子なの!!なぜ…」

「ミソラ夫人、これはここにいる帽子職人が作った帽子です。お気を確かになさってください」

「でも…!!」

ミソラ夫人は何かを言いたげに私のほうを見ていたが、セカがゆっくりとなだめると、そのままお店を後にした。


「どういうことだ」

お店を臨時休業にし、シャッターを閉めると、薄暗い部屋でセカが少し怒ったように聞いてきた。

「……」

「金木製の香りのする帽子。偶然作れるものではないぞ」

「……」

夫人が置いていった帽子を見て、セカが詰め寄ってくる。

だけど、私は言えなかった。
怖いのだ。

「…言えないのか。制作方法を」

「言えない」

私はまともにセカが見ることができなかった。

「…おい、シアン。俺を見ろ。シアン」

名前を呼ぶ声だけが優しかった。

「俺は少し感づいてるぞ、その方法に」

「!」

私はハッとしてセカの顔を見た。

「…『ないものを生み出す能力』。お前は魔法で生み出しているんだろ」
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