第6章 第六話
こうして、不安な夜は静かに明けていった。
でもさ。
このシルクハットも魔法よね。私自身じゃなくて、このシルクハットが魔法なのよね。
そういう魔道具的なものって、ほかにも存在しているのかしら。
朝、何も塗ってないパンをかじりながら、私は考えていた。朝の時間はもちろんギリギリである。
9時半を超えると、例の金髪が入り口前に見えた。
はや!!
適当&だらしない私は、少し圧を感じた。
「セカ、おはようございます…まだ、準備できてません!!」
「早くしろ!!!」
扉を開けて声をかけると、めちゃくちゃせかされた。
まだ、オープンの時間じゃないのに…
「まったく…お前という人間は、いかに堕落しているのか…」
「なんで遅くまで寝てたことばれてるんですか!!!」
「その慌てっぷりを見ればわかる!」
「これはセカが急かすからですよ!!」
そんな言い合いをしているうちに、オープンの時間に。
滑り込みセーフ。
「あ!今日は3件納品があるんですよ!」
「届けるのか?」
「いえ。来店です。私は土地勘がありませんので」
「そういう理由で…?」
しかも!!ここの言葉、日本語じゃなーいのよね、文字が。
納品書が読めなくて、どれがどれだかわからない。なんとなくはわかるんだけど、確信が持てないというか。
「あの、キハさんの納品書ってこれですよね?」
「???そうだが…」
「ですよねー」
「お前、まさか…」
「あははは!!あ、いらっしゃいませー!」
その時、カラン、という音を立てて来店を知らせるベルの音がした。
「あ、キハさん。いらっしゃいませ」
「おやおや、お店はうまくやっているらしいね、シアンちゃん」
キハさんは、お花屋さんの常連さんのおじさんだ。
「帽子できてますよ!」
そう言って、デニム生地の中折れ帽を渡した。
「すごいなぁ、シアンちゃん!!理想通りだよ!ありがとう!!」
そう言って、銀貨を一枚置いて、嬉しそうに帰っていった。
「お前、そういえば、お嬢様の帽子は料金は取らなかったが、いくらだったんだ?」
「え?銀貨一枚ですよ」
「さっきの帽子と同じ?生地代も作業も違うだろうに」
「……」
これと言って、理由はなかった。
最初に受け取ったのが、ヨークさんの銀貨一枚だったので、それが基本になってしまった。手間も生地代もないし。