第4章 第四話
こうしてやってきた内見の部屋は、少し古くて、そんなに大きくないお部屋だった。ヨークさんが進めてくれた一軒家ではなく、アパートだ。そして、メゾネットだ。これなら一階で商売できそう。
お隣が薬屋さんで、シンと静まり返っているため、このお部屋も静かだ。
「ここなら、いいかも。一軒家はさすがにいらないかな…」
正直、掃除とか苦手なので、管理も大変そうだからだ。
「お店の名前とかも考えないと、だよね…」
こういうの考えるの、正直苦手だ。
私は短絡的に、『シアンの帽子屋さん』にした。
「自分で帽子考えるのも大変だし…オーダーメイドにしよう…」
それでも私は、なんとかイメージを絞り出して、帽子をいくつか飾った。
こうして、『シアンの帽子屋さん』がオープンしたのだった。
「お客さん、来ないな…」
誰も来ない店内をぼんやり眺めながら、私は考えた。
この世界には、たぶん魔法はなさそうだ。
この帽子だけが特殊なんだ。
だから、きっと隠さないといけない。
「もっと、この世界を知らないとだめだな…」
私が知っているのはこの城下町の中だけだ。
どうやら貴族街なるものも、城門の中にあるらしいが…
「図書館とかいってみたいなぁ…」
そう言いつつ、何気なく携帯を触った。
私が使っているのは二つ折りの携帯だ。
パカッと開くと、やはり電波は死んでいる。圏外だ。
まだ電池はあるけど、いつ切れるかもわからない。
「みんな、探してるだろうなぁ…なにやってるんだろ、私…」
なんだか無性に泣きたくなった。
新しく買ったテーブルのにおいを嗅ぎながら突っ伏した。
そうだ、私が探すべきは…
「私が探すべきなのは、もとの世界の入り口じゃなくて、あの金目の男なのかも…」
不意にそう確信した。
この帽子も、あの男の持ち物なら、なんか不思議な力で、もとの世界に戻せるのかもしれない!!
なんで気づかなかったんだろう…
「よし!!お店を閉めて探しに…」
カランカラン…
軽いベルの音を立てて、お店のドアが開けられた。
「あ。」
せっかく勢いがでてきたのに、突然のお客さんで足を止められた。
「なんだ、愛想のない店員だな。店主はどこか」
身なりのいい、若い男だった。
「店主は…私です」
そう答えると、男はさもいやそうな顔をした。