第4章 第四話
レイニーが初デートに行った数日後から、お花屋さんに帽子目当てのお客さんが来るようになった。
「アレと同じ帽子が欲しいんですけど!!!」
「まったく同じものはちょっと…」
レイニーの帽子と同じものを作ることには抵抗があったので、細工の部分を変えたりして、シルクハットから出す日々。
そして、たまっていく銀貨。
胃が痛かった。
「これくらいあれば、賃貸とか借りられるかな…?」
シルクハットから謎に無限に出てくる怖さはあったが、お世話になり続けるのも辛かったため、探してみることにした。
そこで、まずはハンナさんに相談してみた。
「いつまでもいていいのよ」
優しくされると泣きそうになったけど、本当に甘え切ってしまったらおしまいだな、とも思っていた。
「…帽子を作るのに、工房が欲しくて…」
それらしい言い訳を考えた。
いつまでも、こっそりこの部屋で作り続けるのに限界も感じていたし。
「じゃあ、ヨークさんに相談するのもいいかもね」
「ヨークさんに?」
「ヨークさんは昔不動産屋さんだったからね」
なるほど!
こうして、私はヨークさんと会う約束をした。
「でね。考えていたんだけどね」
ヨークさんは会うなり、物件の間取りの紙を見せてきた。
「は…はい」
「四番通りにある物件がいいと思うんだ。あそこは商業通りだからね」
「あの…私はそんなに、儲けるつもりはなくて…」
「おや、おかしなことを言うね。なんでだい?」
いやぁ、なんて言ったらいいか…
とにかく私は元の世界に帰る手立てが欲しいのが一番で…
「ゆっくり…暮らしたいな、と…」
と、答えをなんとか絞り出した。
「一番安いので、お願いします」
ヨークさんは深くは突っ込んでこなかったけど、
「もっと欲を出してもいいと思うけどねぇ」
とだけ言っていた。
こうして、とりあえず内見をすることになった。
「一人で大丈夫?」
レイニーが心配してくれたが、あまり頼ってばかりもいられないので、一人で内見にいくことにした。
「ありがとう。なんか、私、何もできなくて恥ずかしくて…」
「そんなことないよ。立派に帽子屋さんだよ!」
「そ、そうかな…」
でも、このシルクハットから、いつか帽子が出てこなくなる日がくるんじゃないか、と私は不安でならなかった。