第1章 マグル好きのお嬢様
はあ、と疲れたようにため息を付きながら、屋敷に入る。まさか、家に来た理由がそんなしょうもないことだったなんて思いもしなかったルーアは、ドラコにこれ以上ないほど呆れていた。
「ルーア様、外で悲鳴のようなものが聞こえましたが何か御座いましたか?」
屋敷に入った途端、ハーヴィンが声をかけてくる。
「お前、聞き耳でも立てていたのか? こんなすぐ近くに……お前は自分の仕事をしろよ」
「お掃除はもう終わっております。私としてはルーア様のお部屋や、ルイスお坊ちゃんのお部屋も掃除したいのですが……」
ルイスという単語に反応して、ルーアの眉がピクリと動いた。ルイス・エイベル。ルーアの実の父親で、エイベル家現当主である男。
「お願いだから、父上の名前を出さないでくれ」
「……申し訳ございません」
ルーアの言葉に、ハーヴィンは泣きそうな顔をしながら返事した。
ハーヴィンにとっては、ルイスもルーアも自分が育てた大切な子たちなのだろう。そんな2人が全く親しくないとなればそうもなる。
「ハーヴィン、私はもう寝る。邪魔しないでくれよ」
「わかりました。おやすみなさい」
いつもなら怒られる時間だった。だが、ハーヴィンは何も言うことなくルーアを見届けた。