第19章 怒濤
あまり混雑してなさそうな定食屋は、表通りからは2つ奥にあった。
カツカレーのカツをメンチカツに変更した雅治と、西京焼きとおばんざい定食を頼んだ繭結。
暖簾に「おばんざい」とあった通り、京都の料理をメインとした定食屋のようで、美味しい、と炊き野菜に箸を伸ばす。
こんにちはー、と耳障りのいい声の来客に、あら、と割烹着を着た女将が微笑んだ。
「久しぶりやねぇ。
おチビちゃんたち、いてへんの?」
「上の子たちは幼稚園に。
今日はこの子だけですぅ」
来客も関西の人なのか、少し訛った口調に視線を上げた雅治が、あ、と溢した。
「なんや、よぉ会うなぁ」
連れの男性の低い関西訛りに、うん?と顔を上げた繭結は、私服で幼い女の子を抱く来客に、んぐっ!と慌ててみそ汁を飲み込んだ。
「おったりせんせっ」
「『忍足』や。
変なあだ名、つけんとって」
ん、と軽く手を挙げた幸村の姿の仁王に、んーっと、と忍足医師。
「...仁王でええんか?」
「ぜよ」
まあ、そうやろうなぁ、と少し苦笑気味。
「ゆう、奥のお座敷、ええって」
先に奥に進んでいた人が戻ってくると、顔を見合わせているのに気づき、こんにちは、と人当たりのいい笑顔を向けられた。
「嫁はんや」
「妻のマコトです」
「藤波です...」
女の子を抱き直した忍足医師が、奥様に声をかけた。
「仁王はわかるやろ?
立海の、『詐欺(ペテン)師』呼ばれとった」
「ああ!」
「と...そん婚約者?
産業医さしてもろてる、鷹司はんとこのビルにおったんよ、彼女」
「あら、不思議な縁」
靴を脱がせてもらい、座敷の上に登った女の子が、トコトコと縁までやってくる。
「あれ?でも、仁王さんって銀髪の方じゃ...」
「今は、幸村、やんなぁ?」
「そうぜよ」
地声に戻した仁王に、紛らわしい、と溜息をつく忍足医師。
「月子、こっちにいらっしゃい」
先に座敷に上がり、仕切りの柱に掴まる娘を呼ぶ忍足医師の妻の声に、あかんでぇ、と彼女を軽々と抱き上げて、座った自身の膝に乗せた忍足医師。
卓の飾りの花に伸びる彼女の手をやんわりと掴む彼の表情は、会議室で見るのとは全く違う、父親の顔だった。
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