第19章 怒濤
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「じゃあ、姉さん女房なんですね」
「ええ。
こう見えて『若燕』さんなんですよ」
ねえ?と妻に微笑みかけられた忍足医師は苦笑い。
「愛人やのぉて旦那のはずなんやけどなぁ」
「けど、由来となった平塚らいてうは、その年下の男性と最後には結婚して子どもももうけとるんやから、『年下の夫』を『若燕』言うてもおかしないやろ?」
「俺、なんやマコトの周りの和、乱したか?」
「んー、無きにしもあらず。無に等しく僅かに一つか二つ、と言ったとこやろうか?」
「身に覚えが無いわ...」
ふふ、と笑う彼女と、考え込む忍足医師の会話はどうにもわかりづらく、(頭いい人たちの会話だ)と、つい、二人を眺めてしまう。
「おっと、おっとぉ」
「んー?なんや?」
娘に腕を掴まれ、どうしたん?と彼女を見る忍足医師。
(わー、『お父さん』だぁ)
会社の会議室での『忍足医師』とは違う、『お父さん』の表情の彼に、ふと、向かいの雅治を見る。
特に何かの感情があるようでは無い表情の雅治。
卓にある野菜の形の箸置きが気になるらしい彼女を見て、ふっ、と目元が和らいだ。
(雅治さんに、娘が、いたら...)
いたずらばかり教えていそうだ、と思うと、ふふ、と笑いが漏れた。
「人の顔を見て笑うげな、失礼な奴じゃ」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて...」
忍足医師の手を小さな手でいじくり回す彼女が、ふと、雅治を見た。
「じーじ?」
じっ、と見つめられる雅治が首を傾げた。
「ちゃうよ。『お兄はん』や」
苦笑いする忍足医師。
「かみ、じーじとおんなし」
「せやね。けど、お顔は若いやろ?」
「おにーはん...?」
「せや」
ふーん?と雅治の白銀の髪を珍しそうに見る。
見つめられた雅治は、笑って手を振った。
「おにーさんぜよ」
「何気に『お兄さん』呼びに喜んでません?29歳」
満更でもなさそうな雅治に、そう言えば、と忍足医師が妻に向き合った。
「うちん子ら、『おっちゃん』『おばちゃん』言わへんね?」
「教えてへんもん。
この世に『おじはん』『おばはん』はいてせん。年上の人はみんな『お兄はん』と『お姉はん』や、と教育しとります」
夫からの問いに、そう応えた忍足医師の奥さんは、ねえ?とお母さんの顔で娘に微笑みかけた。
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