第19章 怒濤
「まじで仁王先輩?」
「そう言ってるじゃないか」
「声は仁王さんだわ」
幸村の声に、信じられねぇ、と、事務室でまじまじと雅治を見る嘉村。
「あの、普段の彼はどのような風貌で...?」
「いろいろっす」
「いろいろ...」
「色々。
真面目そうなメガネだったり、くるくる天然パーマのチャラっぽい若者風だったり、堅物っぽい奴だったり」
嘉村の上げる特徴に、雅治が繭結に耳打ちした。
「柳生、切原、真田じゃな」
ああ、なるほど。同級生や後輩の姿を借りて楽しんでいるのか。と納得する。
「えー、なんか...素顔が一番胡散臭いっスね」
「嘉村、三島様の案件、単件にしようか?」
「っ職権乱用っすスよ」
「折半のインセンティブ、独占だね」
「うっ、ズルいっす...っ」
勝ち誇ったように笑う雅治に、(やっぱりこういう人なんだ)と隣で小さく笑った繭結。
思っていたよりもオープンでフレンドリーな雰囲気に安心し、物の位置や電話の取り方、パソコンの操作などを学んでいると、時計が鳴った。
「昼じゃな」
「っ早い!」
まだなんにも、と繭結は言うが、デスクにはすでに、出勤後すぐに行う、複合機の立ち上げ方、届くFAXの振り分け方に電話を取った時の初手の定型文言、パソコンのシステムの立ち上げ方、コーヒーメーカーの使い方にリモート勤務の社員への対応の仕方などのメモがノートにぎっしり書かれている。
(真面目さが出とるのぉ)
丁寧に整理されたノートに、立ち上がる。
「初出勤のお祝いに、先輩が奢っちゃろう」
「え!悪いですよっ」
「事務員の給料は、末締め翌月20日払いぜよ」
「そうだった!
すいません、お言葉に甘えます」
潔く頭を下げる今月の収入が無い繭結に少し笑って、どこにするかのぉ、と携帯を開く。
「あの、マサ...仁王サン?」
「なんじゃ?」
「幸村さんの顔で土佐訛りやめてもらっていいですか?
違和感しかなくて」
「...わかったよ。
定食屋とイタリアンならどっちがいい?」
「...定食でお願いします」
行こっか、と微笑む幸村の姿の雅治に、慣れないなあ、と一応財布を手に事務所を出た。
✜