第19章 怒濤
雅治の予言通り、事務所に入った途端、いらっしゃいませ、と寄ってきた人当たりのいい笑顔の若い男性。
「初めてのご来店ですか?」
「あ、いえ、香月所長、いらっしゃいますでしょうか?
藤波と申します」
「藤波様ですね」
かけてお待ちください、と待合ブースを示して奥に向かった男性。
「嘉村、気づいとらんの」
「カムラさん...」
「後輩ぜよ」
クツクツとおかしそうに笑って椅子に掛けた雅治の隣に、遠慮がちに座る。
お待たせしました、とやってきたシルバーヘアの初老とみられる男性。
「あれ、仁王君、珍しいですね。
すっぴんじゃないですか。
採用以来かな?」
「よく覚えてましたね」
「履歴書を持ってるからね」
向けられた視線に、おはようございます、と頭を下げた繭結に、香月はにこやかに返した。
「おはようございます。
所長の香月です」
どうぞ、と奥の応接セットに通された。
「ええっと、藤波 繭結さんでしたね。
仁王くんからさわりは聞いていますよ。
大変な思いをされましたね」
「いえ、そんな」
そうだ、と鞄から履歴書を取り出す。
「ありがとうございます。
預からせていただきます」
うん、と目を通した履歴書をデスクに置く。
「僕としては、藤波さんにお願いしたいと考えていますので、今日は職場の雰囲気を感じていただけたらと思っています。
主には、来客の対応や書類整理、電話対応をお願いしたいと考えていまして、受付業務を経験されているとのことですが、ご覧の通り、小さな事務所です。
受付業務は庶務と兼任しておりますので、ご経験の無いこともお願いするかと思いますが、その辺りは了承いただけますか?」
「不慣れでご迷惑をかけるかと思いますが、精一杯、努めさせていただきます」
手をそろえて頭を下げた繭結。
「まあ、そう構えずに。
仁王くん、せっかく事務所に来てるので、仁王くんから藤波さんの席や簡単なものの場所を教えてあげてください」
「承知しました」
「お願いしますね」
採用面接と言うよりも採用挨拶、と言ったやり取り。
「そうだ、仁王くん。
嘉村くんが、『来客なのか出社なのかわからない』と、混乱していましたよ」
説明してあげてくださいね、と未開封の履歴書を手に取った。