第19章 怒濤
ふぅむ、と鏡の中の繭結を見た雅治は、軽くスタイリング剤をつけた髪を低めのポニーテールにし、バンスクリップを使ってドーナツ型のお団子留にした。
「そがに動き回ることはないじゃろうが、緩んだ時は言うてきんしゃい」
ざっくりと櫛を通した自身の後頭部の長い髪を纏めて結ぶ雅治。
「雅治さん、ずっとアシメウルフですか?」
「そうじゃなぁ
なんとなくこの髪型が長いのぉ」
結び目を長く取った毛束に振れた繭結。
「うわっほっそい!
ブリーチとかカラー、してないんですよね?」
「バージンヘアじゃ
ウィッグは持っとるがの」
「男性でもバージンヘアって言うんですかね?
でも確かに、体力無さそうな髪だなぁ」
きれい、と髪に触れる繭結に顔を近づけた。
「なんですか?」
近づけた顔を受け止めた掌の中で、何ってキスを、と言うと、くすぐったい!と離された。
「まあ、今の事務所にこの格好で行っても『いらっしゃいませ、アポイントは?』と聞かれるのが目に見えとるが」
「そうなんですか?」
「出社するのはクライアントとの打ち合わせくらいじゃからな。
それなりの信用できそうな雰囲気に作っていく」
「その雅治さんも見てみたい」
「いつか見せてやるぜよ」
俺も支度するかの、と櫛を置いた雅治に礼を言って、最後にメイクを確認する。
鞄の中身をチェックし、行くか、とカーキーを手にした雅治と部屋を出る。
少し早めに出て事務所周辺を見たい、と言う繭結に、ランチ圏内の店をいくつか教えてやりながら、事務所の駐車場に車を停めた。
「そう言えば、雅治さんとの関係って...?」
「所長には『嫁なら』と言うとる」
「え...」
「冗談ぜよ。
知人としか言うとらん。
恋人いうんを隠したいなら、バイト先の客、言う事にしとくが...」
そう言って、ハンドルに凭れて首を傾げる雅治。
「...雅治さんに迷惑をかけないよう、努めます」
「相変わらず、甘えるのが下手じゃのぅ」
苦笑気味にシートベルトを外して外に出ると、助手席のドアを開けて手を差し出す。
「そう言うなら、俺がいいようにさせてもらうぜよ」
ん、と振った手に捕まって車を降りた繭結の手を引き、事務所へと歩き出した。
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