第19章 怒濤
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「よかった。スーツ入った」
数年ぶりに引っ張り出してきたリクルートスーツを、姿見で見る。
「わー!めっちゃ緊張してきたっ」
転職なんて初めてだし!と落ち着きがなくなる。
「繭結、用意できたか?」
「あ、はいっ」
朝食の片付けを引き受けてくれた雅治に返事をして、よし!とジャケットのボタンを留めて振り返る。
「っわあ!」
「ん?」
シャツのカフスを留めてこちらを向く雅治。
「なんじゃ?」
「これぞまさに、スーツマジック...」
「すーつまじっく...?」
なんだそれ、と言いたげにシャツの台襟のボタンを留めようとしている。
「ん?んん?」
うまく留まらないそれに、繭結、と歩み寄ってきて、ん、と顔をつきだしてくる。
「留めてケロ」
「ふふ。いいですよ」
くすぐったかったらごめんなさい、と一つのボタンを留めた。
「まさに新婚の朝ぜよ」
「新婚ではないです」
「『いってらっしゃいのチュー』は無いんかのぉ?」
「同じ職場に一緒に行くんですけど?」
いるんですか?とソリッドのナロータイを襟中にしまい込み、えっと、とその先を手に取る。
「プレーンにします?ダブル?」
「プレーンで頼むぜよ」
はーい、と手際よく締める。
「...手慣れとるの」
「え?あ、あー...」
「元彼にも絞めてやっとったか?」
「字が違います。それじゃ絞殺です」
殺してませんっという繭結の髪を一束、手に取る。
「ま、他人の過去は変えられんからの。
仕方ない。
じゃが、他ん男のを締めるようなことがないようにな」
約束じゃ、と指先にかけた髪にキスを落とす。
「朝から気障ですね」
「ちぃたあ照れでもしてみせんしゃい。
髪、結うてやろうか」
下ろされたままの髪に、ふむ、と考える雅治。
「どっちがいいですかね?」
さっ、と片手で髪を纏め上げ、うーん、と姿見を見る繭結。
時計が刻む時間帯に、まだ余裕があることを確認し、来んしゃい、と洗面台へと繭結の手を引いて向かった。
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