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音楽室の赤リボン

第1章 零


花子くんと沢山の話をした。空白だった時間を埋めるように、再会できた喜びを分かち合うように。
気がついた頃には月明かりが日の明かりに変わっていて、ついさっき慌てて学園を飛び出してきたところだ。状況は一刻を争う。1分、1秒でも早く。彼ら……いや、あの人物に気づかれる前に家に戻らねばなるまい。

ろくに機能していない脳内時計で秒を刻みつつ人通りの少ない道を駆け足で進み、角を曲がった先にそれは居た。



「こんな所で何してるの?」

「うげ」

「うげとは心外だな」



白い着物に身を包み、冷ややかな視線を此方に向ける無駄に顔の造形が整った青年。僕を見つけた途端迷いも無く目の前まで競歩で迫り腕を掴んでくる。逃げる間もない早業に心の中の格闘家は拍手喝采、心の中の幼女はギャン泣きしている。今から入れる保険は無いだろうか。あるならとっくの昔に入っている。こうなった僕は無力で、決して優しくはないその力に顔を顰めることしかできない。彼に刃向かおうものなら問答無用で背に携えた刀を取り出されることだろう。なんと恐ろしい。

……という冗談はさておき。尚もギリギリと強い力で僕の腕を掴む傷痕だらけの手からゆっくり上へと目線を移動させる。太陽の光が反射して、所々がはねた金髪が輝いている。雲ひとつない早朝の空をそのまま閉じ込めたような瞳がほんの僅かに揺れ動いたことに、きっと君自身気づいていないのだろう。
そうやって怒ったふうにして誤魔化してること、僕は知ってるよ。
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