第1章 零
分かっていた。そんな予感はしていた。知ってるんだ僕。そりゃあ着いて来ない訳がない。特にこれまで男女問わず公平に接してきたであろう輝が見知らぬ小娘を連れているのだから、気になったり僻んだりするだろう。大丈夫です貴方達の輝様を奪ったりなんてとんでもない……懇願されたって……ちょっと揺らぐかもしれない、けど!ただの幼なじみなので!本当に!ないです何も!やましい事は!!と心の中でありったけの言い訳を並べてみるが当然彼らに届くはずもなく。
僕が声に出して喋っていたのか、怨念の籠った視線を向けていたのか、ふと振り返った輝がおかしそうに笑う。
「大丈夫だよ、僕に幼なじみがいることは皆知ってるから」
「ん?」
「今頃噂になってるんじゃない?ずっと姿を見せなかった深窓の……僕の幼なじみが遂にまみえたって」
「え?」
きっと今彼の視界にはこれでもかと顔を青ざめさせた僕が居ることだろう。状況は最悪だ。何?まみえるって。きょうび聞かないな。深窓って言いかけたの聞こえてるんだからな。僕本人がいない所で噂を立てないでください。やめてください。やめてください。
「ちょ、一体どんな悪評広めたの?」
「……」
「輝ッ!?」
るん、と効果音と8分音符でも付きそうなくらい楽しそうな背中が遠ざかってゆく。楽しんでるなあの人……。しかしここで置いていかれたら教室にたどり着くことすら出来ずに泣きながら迷子の放送が流されることを受け入れるはめになってしまう。僕らのやり取りが聞こえていないはずがなかろうに、背後から絶えず聞こえる悲鳴は聞かなかったことにして慌てながら揺れる金髪を追いかけるのだった。