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音楽室の赤リボン

第1章 零


「夢乃、話聞いてた?」

「はは……」

「夢乃?」

「ごめんなさい」



本人が自覚してるかどうかは知らないけど案外心配性というか何というか。彼は、普段善良(笑)な一般市民として生きてる僕が突然家から消えたから焦って仕事ついでに探していたのだ。可愛い奴だと思うけどそれを本人に言ったら絶対喜ばれるからぜっっったいに言ってやらない。それはそれとして強く当られると怖いので控えて頂きたいところ。美形の怒りは怖いってよく言いますもんね。怖さのベクトルが違うなあ。



「まぁいいや。夢乃のやんちゃは今に始まったことじゃないしね」

「?」

「とぼけても無駄だよ」

「真面目に生きてきたと思うんだけどなァ」

「一体誰の話をしてるの?」



本気で分かりませんみたいな顔されたら僕だって傷つくんだよ。知ってた?
抗議の意味で僕の目線よりずっと高い位置にある整った顔を睨みつけてみる。流石にこの流れだと本気じゃないことくらい彼にはお見通しだろう。彼はくすくすと笑い僕の頭に空いている方の手を乗せた。

いつかに僕の秘密がバレて頭潰されそうになったりしたことを思い出した。彼はなんだかんだで身内に優しく、僕のことも身内のように扱うからそれまで一度も本気で怒られたことなんて無かったのだけれど、あの日の彼の怒気は凄まじかった。

隠し事をしたことに怒っていたのか、僕が怪異でもあることに怒ったのか。その思い出をノートを読むことでしか知ることの出来ない今の僕にはもう分からないし、考察のしようも無いのだ。
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