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音楽室の赤リボン

第1章 零


黒い学ランに学生帽。頬に封の札が特徴的な顔をくしゃりと歪ませた“はなこくん”は、一層強い力で僕を抱きしめる。背中に顔を擦り付けられてくすぐったいので1度離れたいのだが、きっと暫くはこのままなのだろうな。

上半身だけをなんとか捻って切りそろえられた黒髪にそっと触れる。はなこくんは動かない。ゆっくり撫でつければ、腰元にすりすりと顔を寄せられる。まるで猫のような仕草に笑っていると、頬を染めてむっすりとしたはなこくんがこちらを見上げてくる。不満気な彼に笑いかけると、それだけで気が抜けたのか一転してふはっと楽しそうに息を吐いた。それからゆっくり僕から離れて、月色の双眸が僕の顔を覗き込む。



「満足した?」

「ウン」



数分後、案外早くに解放された僕と、離れた代わりにと手を繋いできたはなこくんは旧校舎の音楽室にやって来ていた。扉を開けた途端柔らかな風が僕達の合間を駆け抜ける。目の前のワインレッドの布が柔らかに揺れ動く。ちら、とはなこくんに視線をやれば、ふふんと得意気な顔をしていた。



「夢乃が来てるのに気づいたから用意したんだ。どう、嬉しい?」



ぐいと手を引かれ部屋の真ん中に躍り出る。机の殆どが端に捌けられ、残っている机に向かい合うようにして置かれた椅子には柔らかそうな毛布がかけられている。机の上には沢山の飴やクッキー等の軽いお菓子が並べられていて、既に勿怪らが手を伸ばしていたらしくいくつかの個装が解かれている。

はなこくんはもう、と頬を膨らませ勿怪達を乱雑に退かした。もっけの飴好きな所は変わってないみたいだ。
ここで過ごしていた日々が思い出される。この騒がしい感じも、夜間は月明かりだけで凌ぐ感じも、なんだかとてもなつかしい。



「うれしい。ありがと、はなこくん」

「ふは、良かった」



僕の代わりと言わんばかりにあの日と変わらない顔を破顔させているはなこくんを見ているとこちらまで楽しくなるような、そんな気がした。きっと僕はそんなはなこくんのことが結構好きなのだと思う。
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