第1章 零
はなこくんに誘われるがままに椅子に腰掛ける。1番手前に置かれていたチョコチップクッキーに手を伸ばした。サクッといい音がして、優しい味。おいしい。
あっという間に1枚目を食べ終えて2枚目を手に取ると、上から笑い声が降ってきた。
「……なに」
「いや?美味しそうに食べるナーって」
「美味しいよ」
はなこくんは良かった、と僕の頭を撫でる。相変わらずの子供扱いだなぁ。……それもこれも、はなこくんの兄属性と僕の性質のせいなのですけど。
いつもはなこくんは僕に優しい。髪を弄ばれる感覚が小恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
会えて、良かった。覚えてて良かった。ここまで記憶を欲したのは久しぶりだ。人前で意図的に、この姿に成ることも。
はなこくんはおさななじみであり、相棒であり、大事で大切な、そんな存在だ。
彼がどう思っているかは分かりかねるが、少なくとも僕は人生をやり直しても忘れたくない、逢いたいと思える存在だ。
ねえ、はなこくん。
僕……はなこくんに逢えて、良かったよ。
目の前のはなこくんを見やれば目を細めて微笑まれる。月明かりが誰よりも似合う、はなこくん。
「話したいことが、沢山あるんだ」
今宵は語り明かそう。夜が明ける迄。