第1章 零
今回の時期外れの編入だって、大元を辿ればそれのせいだ。
生きるために必要な記憶が消えてしまえば、僕は糸が切れた傀儡のように地に頬をつけて虚空を見つめることしか出来ない。人間は無力だとよく言うが、記憶を失った僕も大概無力だ。
そうなると気持ちも沈んでいって、何もする気が起きなくなるから不思議だ。記憶と感情というのは案外結びつけられているものなのかもしれない。だとしたら僕の感情が乏しいと言われるのも納得だ。
母と1度、それらを理由に病院に行ったことがある。お医者さんは言っていた。
これは病気だ。何かしらのショックが原因で、記憶が消えてしまうようになってしまったのだと。そう診断が下された。
でも僕は知っている。これが病気ではないこと。お医者さんでは絶対にこれを治すことなど不可能だということ。
長くこの世にたゆたって知り得たことはただそれだけだ。じゃあ何?なんで僕の記憶は消えるの。関係ない記憶までどこかに行ってしまったの。こんな紙切れに頼らないといけないの。こんな██████
全てはきっと、これら全てを僕が乗り越えられた時に分かるのだろう。
いつか、全てを精算する日がきっと来る。過去も、記憶も、命も、文字通り全て。答えはその日の先にあるのでは無いか、と。過去の僕は考えていたらしい。
僕は記憶のあった日の僕が記憶のない僕へ嘘をつくとは思っていない。だからそう書いた過去の僕を信じている。
全ての記憶が繋がれば、きっと分かるはずだと。
もしかしたら、その日は██
もしその日の先に何も無くても、僕は僕を恨まない。そもそも恨める環境にあるかどうか。
とにかく僕は、その、いつかやって来る大切な日が来ることを信じて
信じて
しんじて
しんじて……………………
……。