第1章 零
玄関先には用意を終えて家を出てきたのであろう3人が立っていた。鍵を閉めずにいたことに怒られたけどどうせ皆もすぐに来るんだからいいじゃん。って言ったらまた怒られてしまった。
母親が入学祝いにと買ってくれた新品のローファーに足をねじ込む。履けるようになるまでに1ヶ月もかかってしまった。ようやくこのローファーを履いての登校ができることに少し嬉しさを感じる。
「お待たせ!」
「忘れ物無いか?」
光の言葉に頷きながら先程の絡まり放題リボンを取り出す。当然のように受け取った光は難なく絡まりを解き、そのまま僕の髪を結んでくれた。輝が開きっぱなしになっていたリュックのチャックを動かしてくれる。片腕に姫ちゃんを抱えたまま。器用なことで。
結び終えた僕の髪を見た姫ちゃんが「おそろいだね!」と手を出したので、僕も「お揃いだね」と返してハイタッチを交わした。
「じゃあ行こうか」
「待って、鍵閉めるから」
建付けの悪い引き戸に鍵を押し込む。オンボロ鍵に文句をつけたい気持ちは山々あるけどリフォームも取り替えもする余裕が無いので仕方ないのだ。用済みの鍵を輝にリュックに入れて貰って改めて学園への道を進む。光と地面に降り立ったてぃあらちゃんに先導されるまま駆けてゆく。朝から元気だねぇ2人は。僕は昨夜寝てないから陽の光に目を焼かれそうだよ。
ちらりと後ろで優雅に歩く輝を振り返る。視線に気づくなりにっこり笑いかけてくる。輝だって殆ど寝てないのにも関わらず平然としていて流石としか言いようがない。ああやって数多の人間の心を落としてきたんだろうな。怖いね。僕は落ちてなくてよかったと心から思う。割ともう手遅れ?なんのことだか。はは。