第1章 零
姫ちゃんを幼稚園に送り届け、光とは中等部の玄関で別れ、輝と共に高等部までやって来た。僕が靴を履き替えるのを見届けた輝は自分も靴を履き替えると歩いていってしまった。新校舎に入るのは2回目の筈だが、前回のことなんて覚えていないのでもし1人きりだったら教室にすら辿り着けないと思う。今日ばかりは輝が居てよかった。
と言えど学年が違う輝に頼りきりというのは無理がありすぎる。早めにマップをノートに書き込みたいなぁなんて思いつつリュックからそれを取り出す。どのページにクラスをメモしたんだっけ。ぱらぱら捲っているといつの間にか靴を履き替えて戻ってきていた輝に肩を叩かれた。
「お待たせ」
「ぜんぜ……ん……え?何それ」
返事をしながら顔をあげると、そこには予想だにしない光景が待ち受けていた。いつも通りの表情をした輝の背後には沢山の生徒達が並んでいる。男女問わず、僕の身長も関係しているかもしれないが最後尾が見えないほど。整列というより集合って感じだ。烏合の衆ってこういうことだ、きっと。
この状況は何だと問い詰めようと人混みから顔を逸らし改めてどう考えてもこの騒ぎの中心人物である人を見上げる。僕の視線に気づき、意味ありげに満面の笑みをうかべる輝。あぁ、分かった。彼の本性も露知らず輝に惚れ込んでしまった哀れな人達なんだ。流石外面だけ良い男である。ふと背後を振り返った輝に黄色い悲鳴が巻き起こる。わぁ。すご。うわぁ……。えっと……。僕は数歩後ずさり、輝は開いた空間をたった1歩で埋めてしまった。なるほどリーチの差。
「そろそろ行こうか。夢乃のクラスは?」
「え?えーと……1年A組だって」
「へぇ」
A組と聞いて意味ありげに目を細める輝。何、なんですか、怖いんですけども。去年A組だったなって郷愁に浸ってる感じですか?知り合い……は何処にでも居そうだな。ともかく一応生徒会長をしている輝が他学年と言えど教室の場所を知らないはずがないと信じたいので、歩き出した輝の背中を追いかける。そして僕ら──正しくは輝──の後ろに着く生徒達。