第19章 笑わない人が笑った時ってキュンとする(爆豪勝己)
そう返事をして立ち上がろうとした繭莉と、目が合ってしまった。
いきなり自分の心臓とは思えない程、ドクドクと鼓動が高まる。
「お久しぶりです、爆豪さん」
「……あぁ」
まさか、向こうから話しかけられると思わなかったので平静を装うものの声が上ずってしまう。
「ねぇねぇ、上鳴のサイドキックって大変?ハラスメントされてない?」
耳郎が話を逸らすようにどうでもいい質問を繭莉にしたので、勝己は少し安堵した。
「大変じゃない仕事なんて、ありませんので。……失礼します」
繭莉は眉一つ動かさずにそう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
それを見送っていた耳郎が、漸く口を開いた。
「……なんかあの子、冷たくない?真面目?」
「そうだよなぁ、ずっと同じ顔してたもんな」
切島も、耳郎に同調するように言った。
確かに。
繭莉は、愛想はない。
だから、人に誤解される事も度々あるだろう。
だけど、少なくともこの中で勝己だけは知っている。
昔、彼女は笑顔だったこともあったらしいし、今も少しだけど笑う事を。
「……俺、帰るわ」
「え?ちょ、爆豪急に!?どうした?」
勝己は、疑問の声を投げかけた上鳴の方を一瞬だけ見て、足りるかどうか分からないが千円札を何枚かテーブルに置くと店を後にした。
「……おい!」
夜の街の雑踏に紛れていく繭莉を勝己は呼び止めた。
勝己の声に、彼女はゆっくりと振り向く。
その目は、少し見開かれている気がした。
「爆豪さん、どうしたんですか」
「……別に……」
2人は、並んで歩き出した。
だけど、どちらとも話を切りだす素振りはない。
ただ、並んで歩き続けた。
歩きながら、勝己はぐるぐると考えを巡らせた。
なんで俺、コイツ追いかけてきたんだ?
なんでって……なんで……
そして、心の中で舌打ちをした。
勝己は、分かっていた。
なんでもいい。
なんでもいいから、繭莉ともう一度話がしたかった。
あわよくば、笑って欲しかった。
「……なんだよ」
「はい?」
「ヒーロー名、あんだろ……なんだよ」
散々考えてこれかよと訊いておいて思ってしまった。