第19章 笑わない人が笑った時ってキュンとする(爆豪勝己)
笑顔になれない。
「あの時、笑顔でみんなに大丈夫って言ったのに……」
繭莉は、涙が零れるのを必死に堪えていた。
「何も出来なかった。……きっとこれからも、何も出来ません」
勝己は、繭莉の話を聞きながら、自分が高校生の頃の事を思い出していた。
「……お前がそう思うのも自由だけどよ」
ヴィランとの、大きな戦いの事を。
「そいつは、お前にヒーローになんの止めて欲しくて庇ったわけじゃねぇだろ」
生きてはいるが、エッジショット。
勝己が死にかけた時、命を削って救けてくれた。
彼がいなければ、勝己は死んでいたかもしれない。
救ってもらった恩を、どう返すか。
それは、一人前のヒーローになる事で返せるんじゃないかと勝己は思っていた。
だから、これだけは言いたいと思って言葉を出来る限り選んだ。
「ちゃんと、やりてぇ事やって欲しいんじゃねぇのか」
繭莉は、勝己の言葉をただ黙って聞いていた。
2人の間に、暫く沈黙が流れた。
「……そうなんでしょうか」
先に口を開いたのは、繭莉だった。
「こんな、臆病な私に出来る事なんて……ない気がします」
「救われた人間がそれじゃ、勿体ねぇだろ」
勝己がそう言うと、繭莉が弾かれたようにこちらを見た。
「……爆豪さん」
「あ?」
「上鳴さんの連絡先、分かりますか?」
そう尋ねてきた繭莉は、どこか意を決したような表情だった。
「知ってっけど……」
スマホを取り出して、上鳴の連絡先を探す。
「ほら」
上鳴の電話番号が表示されたスマホを繭莉に渡すと、それを受け取った彼女もスマホを取り出して番号を打ち込んでいく。
「ありがとうございます」
勝己にスマホを返すと、繭莉はソファから立ち上がった。
「先にお帰り下さい。私、今使ったやつ片付けるので」
そう言って、テーブルに置いてあったグラスを持ってカウンターの方へと歩いて行く。
「……爆豪さんって」
途中で、繭莉が振り返った。
「不思議な人ですね」
そして、僅かに微笑んだ。
「……っ……」
その瞬間、勝己は息をするのを忘れた。
ほんの少し、彼女に見惚れてしまったのだ。