第9章 シロツメクサ
「上手だね。雨宮くん」
「えへへ。ゆめちゃんかわいい」
「うふ。ありがとう」
庭園で雨宮くんが白詰草の花冠を編んで私の頭にのせてくれた。
「私も作ってみたいな。教えて?」
「うんいいよ。これをこうやって…」
「こう?」
「うん。もっとギュッてやって大丈夫だよ。こう…」
雨宮くんの手が私の手に重なる。
顔を見上げると、彼はにっこりと笑った。
丁寧に教えてくれて花冠が出来上がる。
でも出来上がりはイマイチ…。
「うーん。雨宮くんにプレゼントしようと思ったのに…イマイチ」
「ううん。うれしいよ。ありがとう」
雨宮くんはそう言って私が作った花冠を頭にのせる。
ちょっと恥ずかしそうに。
「雨宮くんかわいい」
私がそう言うと雨宮くんはちょっとすねる。
「もう…。子供扱いしないでよ」
「雨宮くんだって私に言ったよ」
「ゆめちゃんは女の子だからいいの」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「ありがとう。雨宮くん」
私は花冠を手に持ち、眺めている彼に話しかける。
「私のために花冠を作ってくれて。作り方も教えてくれて」
「うん…。ぼくこんな物しかプレゼントできないから…」
雨宮くんはちょっと寂しそうにうつむく。
「すごくうれしい。ずっと忘れない。ずっと」
「ゆめちゃん…」
私が心の底から思ったことを言うと、彼は顔を上げて嬉しそうに、少し照れくさそうに微笑んだ。
気が付けば辺りはもう夕焼け空になっていた。
「ぼくもう帰るね」
そう言って雨宮くんは立ち上がり、ズボンに付いた草をパンパンと払った。
「ゆめちゃんは彼氏と帰るんだろ?」
「うん…」
「じゃあバイバイ」
雨宮くんは笑顔で手を振る。
「雨宮くん…」
「うん?」
「ううん。バイバイ」
「バイバイ」
私はまた会える?って言葉を飲み込んで手を振った。