第9章 シロツメクサ
「こんな所で遊んでたんだ」
逢坂くんの声だ。
「うん。遊んでたの。見て見て」
私は花冠を頭にのせて見せる。
「可愛いねえ」
逢坂くんが小さい子に言うみたいにわざと大げさにほめる。
「ゆめちゃんが作ったの?」
「ううん。友達にもらったの。私の友達」
「そっか」
逢坂くんが優しい瞳で頷く。
「そうだ。これ見つかったよ」
私は胸ポケにしまっておいたシャーペンを渡す。
「あ…シャーペン。ありがとう!どこにあった?」
逢坂くんはシャーペンを受け取り嬉しそうに眺める。
「図書館だよ。書棚の方に転がっていっちゃったみたい」
私がそう言うと彼はちょっと首を傾げる。
「全部探したんだけどな…。でもよかった。もう失くさないようにするね」
「大丈夫だよ。失くしても」
「え?」
私の言葉に彼は不思議そうに私の顔を見る。
「失くしても、消えちゃっても…大事な思い出は心の中にあるから。ずっと」
「…うん」
「夕焼け空見てると急に涙が出てくることってあるよね」
「そうだね」
意味ありげな言葉を連発する私を、逢坂くんは深く突っ込まずにただ頷いてくれた。
女ってそんなもんと思ってるのか、私自身がもともとそんな感じだと思われてるのか、何かあっただろうけど今は聞かない方がいいと思ってるのか…わからないけど。
「ありがとう。逢坂くん」
「うん…」
私と逢坂くんは二人でいつもの帰り道を帰った。
fin