第9章 シロツメクサ
放課後
私は一人で図書館で勉強していた。
逢坂くんの部活が終わるのを待ちながら。
カタッ
何か軽い物が落ちる音がした。
その方向に目をやると見覚えのある黒いシャーペンがコロコロと書棚の方に転がっていった。
(あれ?あのシャーペン逢坂くんの?)
私はシャーペンを追いかけて書棚の方に行ってみる。
書棚の前でシャーペンを拾い上げる男の子。
雨宮くんだった。
「雨宮くん」
私が声をかけると、雨宮くんはシャーペンを持ってにっこりと笑った。
「こんにちは。ゆめちゃん。今日は一人だね」
「うん。そのシャーペン雨宮くんの?」
「ううん。拾ったんだ」
雨宮くんはちょっとイタズラっぽい顔で笑う。
「それ…私が逢坂くんにあげた物に似てるの。見せて」
「ふうん…。でもあげた物ならゆめちゃんの物じゃないよね?その逢坂って子が返してって言ってきたら返してあげてもいいけど」
そう言って雨宮くんは手の中にシャーペンを隠す。そして続ける。
「…ずるいよ、その子ばっかり。ゆめちゃんとぼくの知らない外国語の勉強したり…ぼくの知らないことして遊んでるんだろ。ずるいよ」
「雨宮くん…」
なんて言ったらいいのかわからない。
困っていると雨宮くんが小さくため息をついてからにっこり笑った。
「いいよ。返してあげる…からそんな顔しないで」
雨宮くんが私にシャーペンを手渡す。
黒いクマくんのシャーペン。
私は自分の手の中にあるそれをしばらく見つめて顔を上げた。
「雨宮くん遊ぼう」
「え?」
私の言葉に雨宮くんはちょっと不思議そうな顔をする。
「なんか雨宮くんの好きなことして遊ぼうよ。なんでもいいよ」