• テキストサイズ

【薄桜鬼】君を忘れない【短編集】

第1章 火の粉【斎藤一】


それからの日々、俺はほとんど毎日のように鍛冶屋へ足を運んだ。

椿は少しずつ元気を取り戻し、炉の前に立つ姿も板についてきていた。
父の店を守る為、毎日のように働いていた。

火の粉が散るたび、煤けた頬に淡い光が宿る。
その姿を見るたび、胸の奥がじんわりと温かくなった。

「斎藤さん、今日は少し早いですね」

振り返った椿が、嬉しそうに微笑む。

「仕事がひと段落した。……今日は顔を見に来ただけだ」

「ふふ、わたしの顔を?」

からかうように笑う声に、言葉を失う。
それを誤魔化すように炉の火を見つめた。

椿は父の残した刀を丁寧に研いでいた。

「その刀、大切にしてるんだな」

「ええ、研いでると父さんと繋がれてる気がするんです」

椿は真剣な眼差しで言った。

「きっと、喜んでくれてます」

その横顔には、強さと哀しさが入り混じっていた。

火が揺らめき、彼女の頬を金色に照らす。
その光景があまりに綺麗で、息を呑む。

「……最近は休めているのか」

そう言うと、椿は手を止めて笑った。

「はい。でも、斎藤さんこそ。ちゃんと休んでますか?」

「俺より自分の心配をしろ」

「してますよ」

そう言いながらも、彼女は茶を淹れてくれた。
茶の香りが火の熱に混じって、心がほどけていく。

湯呑みを受け取る俺に、椿はそっと言った。

「……斎藤さんと話してると、父のことを思い出しても怖くないんです」

その言葉に、胸の奥が強く疼いた。

「怖くない」と言うその声の裏に、どれだけの涙を閉じ込めているのか。俺は、ただ黙って茶を啜ることしかできなかった。

「この刀をね、斎藤さんみたいな人に持ってほしいなって思ってたんです」

椿がふと呟く。

「父がよく言ってました。『刀は使う者の心を映す』って。だから、斎藤さんなら――きっと、綺麗な刃になります」

俺は何も言えずにいた。
ただ、火の粉が弾ける音だけが響く。

「……そんなことを言われたのは初めてだ」

そう返すと、椿は少し照れたように笑った。

「本当のことですよ」

それから少しの沈黙が流れた。
だが、その静けさは心地よく、長く続いてほしいと思った。
/ 36ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp