第3章 薄氷の恋【沖田総司】
菫ちゃんとの散歩から、時々縁側に座って庭を眺めるようになった。
ぽかぽかと陽が胸元を撫でて、眠気がこぼれそうになる。
「総司さん、干していたお布団、ふかふかですよ」
菫ちゃんが嬉しそうに縁側へ布団を抱えて運んでくる。
日に当たった綿の匂いと、彼女のほのかな香りが混じって優しい匂いがした。
「ほら、前見ないと転ぶよ」
「総司さんが手伝ってくれれば転びません」
「無理言わないで。僕は労咳なんだよ」
「そういう時だけ病人らしく言いますね」
「病人なんだけど」
会話が、以前より自然に弾んでいる。
気を遣わせることも減り、彼女の方から意地悪な冗談さえ投げてくるようになった。
それが妙に嬉しかった。
「総司さん、お布団敷きましたからね」
「僕のお母さんなの?」
「あ、総司さん。じっとしてて」
「何?」
菫ちゃんは駆け寄って来たかと思えば、僕の髪に触れた。
「ちょっ……なにいきなり」
「葉っぱが着いてました」
「……あのね、僕は子どもじゃないよ。言ってくれれば自分で取るのに」
「そうでしたね」
ふふ、と笑う声。
それがくすぐったい。
「恥ずかしかったですか?」
「別に」
「耳まで赤いですよ」
「日差しのせいだよ」
「じゃあ、そういうことにしておきます」
頬が熱いまま、視線をそらす。
笑いながら人を追い詰めるのは、菫ちゃんの悪いところだ。
僕が少しむくれて黙ると、菫ちゃんは今度は庭のほうを向いて、一本の枝に目を留めた。
「あ、椿が咲きましたよ」
庭の隅、赤い椿が一輪だけ咲いていた。
「……わざわざ僕に見せようと、今まで摘まずにいたんでしょ」
「はい。総司さんは花を見るのが好きですから」
「誰がそんなこと言ったの」
「時々、お庭を見るじゃないですか」
ぎくりとした。
その姿を、ずっと見ていたのか。
「たまたまだよ」
「それでも、綺麗なものが好きな人はいい人です」
「……勝手なこと言って」
「本当ですよ」
菫ちゃんは袖で口元を隠して微笑む。
その笑顔を見ると胸がふわりと温かくなる。
咳の痛みも、肺の重さもその瞬間だけ忘れてしまいそうになる。