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【薄桜鬼】君を忘れない【短編集】

第3章 薄氷の恋【沖田総司】


お粥を半分ほど食べ終えたころ、外の光が障子を透かして揺れた。

風が変わったのだろう。

庭の木々がさざめき、朝というよりは昼の気配が近づいている。

菫ちゃんが片付けながら、ふと僕を振り返る。

「少し……外に出てみますか?」

唐突な提案に、思わず息が止まった。

「外?僕が?」

「はい。庭だけでも。陽に当たると、気持ちいいですよ」

胸の奥がざわつく。
刀を握れなくなってから、外へ出るのが妙に怖くなっていた。

風の匂いすら、昔の自分を思い出させてしまう。

「……病人を歩かせるなんて、ひどい看病だね」

「責任は取りますから」

「どうやって」

「引きずってでも帰します」

「乱暴だね」

「総司さんを心配してるからですよ」

やわらかい声に押される形で、僕はゆっくり身体を起こした。
立ち上がると視界が少し揺れ、菫ちゃんの手がそっと支えてくれる。

「大丈夫ですか?」

「……情けないな」

「情けなくありません。頑張ってますよ、総司さんは」

庭へ出ると、冷たく澄んだ空気が肺に触れた。

痛みが走るが、嫌ではない。

空の色は淡い冬の青で、どこか遠い。

「寒くないですか?」

「君のほうが寒そうだけど」

菫ちゃんは羽織をぎゅっと胸元で合わせる。
その手が白くて細くて、思わず目を奪われた。

「ほら、こっち来てください」

菫ちゃんが指さした先には、庭の片隅に植えられた梅の木があった。
まだほとんど蕾だが、一つだけ小さくほころんでいる。

「咲き始めました」

「……綺麗だね」

「総司さんに、見せたかったんです」

胸が詰まるような沈黙が落ちる。

風が吹き、菫ちゃんの髪の端がふわりと揺れた。
いつの間にか、隣に立つ距離が前より近い。

ほんの少し手を伸ばせば触れられるほど。

「……菫ちゃん」

「はい?」

言葉が喉の奥につかえて出てこない。
ありがとう、と言いたいだけなのに、胸が苦しくなった。

代わりに聞こえたのは、あまりに弱々しい自分の声。

「……僕さ。君が傍にいると、調子狂うんだ」

菫ちゃんは驚いたように目を瞬かせた後、笑った。

「でしたら、もっと調子を狂わせますね」

「……どうして」

「総司さんが、生きる気持ちを手放さないように」

その一言は、まるで梅の蕾のように胸の奥で開いた。
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