第3章 反逆の刃を空にかざす
「こっち向け!ゴラァ!」
「向かねぇとその汚ぇケツに刃ぶち込んで殺すぞ!」
声の威圧に、二体の巨人が振り返った。
その巨体の迫力に、誰もが本能的に後ずさる。
しかし、ミタビは目を逸らさず、仲間を引き連れ突進する。
「来たァ!二体かかった!」
「走れ!建物まで走れ!」
地上に降り立つことはほとんど自殺行為だ。
巨人の足音が地面を揺らし、瓦礫を蹴散らす。
もしかしたら、このまま捕まり喰われてしまうかもしれない。
馬も建物も、隠れる場所もない。
私たちは無力だ。
イアンもその光景を目にして、一瞬息を呑む。
恐怖に支配されるかと思いきや、すぐに納得した表情へと変わった。
「これしかない…ミタビ班に続け!」
「僕たちも行こう!」
私たちは、エレンの少し前に出て走り出した。
立体機動は使わない。
なぜなら、他の兵士たちが命を懸けて巨人を引き付けてくれたおかげで、今の私たちの周囲には巨人の影がない。
信じるしかない。
「ほら、早く来いよノロマ!こっちに来い!」
その瞬間、巨人の腕に掴まれる兵士が一人。
救おうとしたミタビも、巨人の圧倒的な力に押し潰されていく。
目の前で仲間が力なく折れる音が響き、地面に倒れる彼らの影が、胸に重くのしかかる。
イアン班長も自らを囮として走る。
しかし、その代償はあまりにも大きく、頭部を巨人に喰い千切られた。
それでも彼は死の間際まで、私たちを振り返り、目で「走れ」と伝えようとしていた。
その光景を見たアルミンは涙を堪え、ミカサは顔を引き締め前だけを見据える。
頭の中で、あの時の自分の声が蘇る。
『ちなみに、実践経験は初めて?』
あの問いかけをした時、イアンは怪訝そうにしていた。
なぜそんなことを聞くのかと。
だが今、私は理解する。
彼の現場判断力は卓越していた。
初めて全体の指揮をとる彼が、この場を乗り切れるか信じられなかったのだ。