第3章 反逆の刃を空にかざす
煙弾を打ち上げた後、リコは私たちの元へ来て、撤退するように言ってきた。
煙の残り香が鼻をくすぐり、彼女の足音が地面を叩く中、リコの顔には勝利の余韻と新たな緊張が交錯し、息を切らして近づく姿が、戦いの苛烈さを物語る。
「残った巨人が来る、壁を登るぞ!」
「エレンを回収した後に離脱します!」
しかし、こちらは中々上手くいっていなかった。
何故なら、エレンを救出して離脱しようと思っても、そのエレンを出すことが出来ないからだ。
巨人の身体と一体化しかけたエレンの体が、熱気を帯びて脈打ち、触れるだけで皮膚が焼けるような痛みが走る。
私の心に、焦燥と恐怖が渦巻き、エレンの苦悶の表情が視界を支配する
――このままでは、取り残される。
信じられないくらい高熱で出すことは困難だし、体の一部が一体化しかけているせいで救出できない。
熱風が周囲を蒸し、汗が目に入って視界をぼやけさせ、巨人の足音が遠くから地響きとなって迫る中、手のひらが滑り、力の抜けそうな絶望が胸をよぎる。
アルミンも私も一生懸命引っ張っているが、出すことは出来ない。
アルミンの細い腕が震え、歯を食いしばった顔に汗が滴り落ち、私の指がエレンの皮膚に食い込み、血がにじむ痛みを感じながらも、互いの視線が交錯し、無言の励ましを交わす。
心の中で叫ぶ
――エレン、戻ってきてくれ。この勝利を、共に味わいたいんだ。
情景は残酷に鮮やかで、壁の影が長く伸び、煙の残滓が空を覆い、迫る巨人の影が私たちの背中を追いかけるように。
「切るしかない!」
そう言ってリコはブレードを引き抜く。
リコの声が、絶望と決断の狭間で震え、刃の金属音が空気を切り裂くように響く。
周囲の熱気がまだ残る中、彼女の瞳にはエレンを失う恐怖と、生き残らせるための覚悟が宿り、手がわずかに震えながらも、ブレードを握りしめる指先に力がこもる。
汗が額から滴り落ち、地面に小さな染みを作る。