第3章 反逆の刃を空にかざす
「扉からも新たに巨人が入ってきます!およそ10m級四体!」
「四体も…」
次から次へと現れる巨人たちに、苛立ちが募って来る。
心の中の冷静さが、少しずつ削られていくのを感じた。
視界の端では、丁度ミカサがエレンに向かっていた13m級の巨人を倒した後だった。
彼女の動きは鋭く、無駄がない。
だが、肩には僅かな震えが残る。
やはり、ミカサをエレンの近くに配置しておいて良かった。
離れて作戦に参加していても、もしかしたらエレンのことが心配で集中出来ないかもしれないから、もしものためにエレンの近くに配置していたのだという判断に、わずかな安堵が湧く。
ちなみに、エレンの近くにいるようにと伝えた際、ミカサは安堵の表情を浮かべていた。
その表情の端には、守るべき対象への強い決意が見えた。
「でかしたアッカーマン!」
イアンの声が戦場の喧噪を切り裂く。
ミカサは小さく頷く。
その頷きに、仲間からの信頼と重責の自覚が凝縮されている。
ミカサは大丈夫だろう。
問題は、あの四体の巨人達だ。
四体はまるで歯車のようにこちらを包囲しようとしている。
足音が一つ一つ、地を刻む。
(私が行かないと…)
そう思い討伐しに行こうとした瞬間、視界が大きくブレた。
目の前が揺れ、世界が一瞬歪む。
心臓が跳ね、体の重心が狂う。
空気が突然厚くなり、耳鳴りが混じる。
気付いた時は、私がさっきまでいた屋根から落ちていて、冷たい地面に転がり落ちていた。
瓦礫の破片が散乱した路地は、雨のように降り注ぐ血の臭いが充満し、足元をべっとりと濡らしていた。
遠くで巨人の咆哮が雷のように響き渡る中、私の体はまるで重い鎖に縛られたように動かなかった。