第2章 絶望の果てに灯るもの
部屋の扉が静かに開く音がした。
風に混じって、土と血の残り香が流れ込んでくる。
入ってきたのは、調査兵団兵士長――リヴァイだった。
彼は一歩足を踏み入れた瞬間、目を細めた。
解けかけた包帯、乱れた寝具、崩れそうな本の塔。
視線がそれらを一瞬で把握し、次の瞬間にはお決まりのように舌打ちが響いた。
「……また散らかしてやがる」
その低い声に、グレースは無意識に肩をすくめる。
(これはまた、後で掃除しろと説教されるな……)
そう思いつつも、彼が何の用なのかを察しきれず、いつものように対面の椅子を指さした。
「そこに座って。どうせ立ったまま話すつもりはないだろう」
リヴァイは無言のまま椅子に腰を下ろす。
二人が話をする時は、いつもこの配置だ。
作戦の報告でも、部下の話でも、あるいはどうでもいい雑談でも――この位置に座ることが、二人にとっては習慣のようなものになっていた。
沈黙が数秒、漂う。
その沈黙を破ったのは、彼の低く冷たい声だった。
「……また庇ったのか」
「誰から聞いたんだ?」
グレースは眉を寄せる。
「君はあの時、あの場にいなかったと思うけど」
「新兵から聞いた」
(新兵……さっきの子か)
医療班で泣いていた少女の顔が脳裏をよぎる。
リヴァイがわざわざその子から聞いたのか、それとも少女が自ら報告に行ったのか
――どちらにせよ、彼の耳に入ったのならその子が彼の威圧感に押し潰されていないか少し心配だった。
(壁外から戻ったばかりで、まだ機嫌も悪いだろうし……)
そう考える彼女に、リヴァイは冷たく言い放った。