第3章 反逆の刃を空にかざす
「…そんなことを言われたって」
リコの声は掠れ、訴えにも似ていた。
彼女の目には怒りと迷いが同居している。
「では、どうやって人類は巨人に勝つというのだリコ、教えてくれ!」
問いかけは鋭く、切迫している。
目線は逃げ場なく彼女を捉え続ける。
私の言った言葉を聞いても尚、リコは反論しようとする。
しかし、今まで黙って私の言葉を聞いていたイアンが、焦ったようにリコに問い詰める。
額の汗が光る。
イアンの切羽詰まった表情を見て、再びリコは口を止めた。
空気が張りつめ、誰もが次の言葉を待ち受ける。
「他にどうやったらこの状況を打開出来るのか!人間性を保ったまま誰も死なせずに、巨人の圧倒的力に勝つにはどうすればいいのか!」
イアンの口は震え、だが芯が通っている。
彼の瞳に浮かぶのは、仲間の顔の断片だ。
「……巨人に勝つ方法なんて、私が知っているわけないッ」
リコは、声を振り絞りながらも言う。
肩が小さく落ち、悔しさと敗北感が混ざる。
本当なら、誰しもが思っている筈だ。
誰も犠牲にしたくない、でも勝ちたいのだと。
その矛盾が、ここにいる全員の胸に重くのしかかる。
しかし、そんな甘い考えで巨人達に勝てる訳がない。
現実は残酷で、理想だけでは人の命は守れない。
だから、私たちは選んだ。
大勢の命を犠牲にしてでも、必ず勝利を納めることに。
決断は冷たく重いが、既に血の匂いが選択の重さを教えている。
だから、私たちは賭けるしかない。
エレンに可能性を賭け、命を投げ打ってでも勝利に貢献することに。
少なからず、私はこの賭けに乗った。
胸の奥で張り詰めた何かが、固い結論を出したのだ。